ネイランドとストーク・バイ・ネイランド

ストーク・バイ・ネイランドのある丘を望む
サフォーク州のネイランド(Nayland)とストーク・バイ・ネイランド(Stoke-by-Nayland)という、コンスタブル・カントリー内に位置する、2つの可愛い村を訪れるハイキングへ出かけました。

コンスタブル・カントリー、またはデダム・ヴェイル(Dedham Vale)と称されるこのエリアは、西はビューアーズ、東はマニントリーという町の間を、スタワー川(River Stour)が、河口へと向かい、西から東へ流れる地域。ヴェイルという言葉は、幅の広いゆったりとした谷(valley)を意味します。スタワー川の南側はエセックス州、北側がサフォーク州。風景画家ジョン・コンスタブルの絵に描かれた、おだやかな風光明媚さから、AONB(Area of Outstanding Natural Beauty、際立った自然美地区)、に指定されています。コンスタブルが生まれた村であるイースト・バーゴルト、行った学校のあったデダム、父親が所有した水車小屋のあるフラットフォード・ミルなどの、もっと観光客にもなじみの地は、ネイランドより、東に位置しますが。このデダム・ヴェイル内は、私の住んでいる場所からは、比較的行きやすいのもあり、以前も何度かハイキングをしているのですが、今回訪れたネイランドと、ストーク・バイ・ネイランドを行くのは、初めて。

ネイランドのスタワー川沿いのパブの庭
ネイランドというのは、昔の言葉で「島」を意味したそうで、スタワー川のほとりにあります。一方、ネイランドから、北へ丘を登って行ったところにあるストーク・バイ・ネイランドのストークというのは、イギリスではよくある地名で、「place」(場所)という意味。ですから、ストーク・バイ・ネイランドとは、「ネイランドのそばの場所」。ちょっと投げやりなネーミングです。他にも、ストークというと、日本のガイドブックには必ず載っている、ウェッジウッドなどの陶器の町であるストーク・オン・トレント(Stoke-on-Trent)という地名が思い浮かびますが、こちらは、要するに、「トレント川にある場所」・・・ちゃんとした名前考えるのが面倒だったんでしょうかね。いずれにせよ、ストークはストークでも、ストーク・バイ・ネイランドは、少々荒れた、がらの悪い印象のあるストーク・オン・トレントとは、比べ物にならないほど素敵な場所です。にもかかわらず、海外の観光客などは、ほとんど行かない村。

ネイランドから、スタワー川を隔てて南側は、長距離ハイキング路、エセックス・ウェイの一環として、丁度1年前に歩いた場所です。数か月にわたり、10回に分けて歩いたエセックス・ウェイの8回目部分でした。なつかしや。時をワープして、川の反対側を歩いている自分を眺められたら楽しいでしょうね。

さて、今回のハイキング、まずは、バスでネイランドに到着。バスを降りてすぐに、小型図書館と化しているテレフォン・ボックスと遭遇。前にも、田舎道で、やはり本がぎっしり置かれたテレフォン・ボックスを見た事があります。

ネイランドは、やはりサフォーク州にある、中世の織物の町、ラべナムロング・メルフォード同様、毛織物で富をなした場所。産業革命に取り残された事が勿怪の幸いとなり、開発が行われなかったため、今も、小さな村はびっしりとハーフ・ティンバーなどの当時の面影を残す建物が立ち並んでいます。

表に植物がからまった村の郵便局も、村の雰囲気にばっちりで、今までみた郵便局の中でもぴか一。素敵な郵便局大賞をあげたい。

ネイランドのセント・ジェームス(St James)教会。教会のドアのすぐ外で、前週に行われた結婚式のコンフェッティ(新婚夫婦に振りかける花びらのような紙切れ)を、ほうきではいて掃除しているおじいさんがいました。「また、今週も結婚式あるから片付けておかないと。」と。
コンスタブルのキリスト画のかかる祭壇
教会内の祭壇には、ジョン・コンスタブルによる、キリストの絵(Christ Blessing the Bread and Wine)が掛けられています。この人の描いた人物画や宗教画というのは、あまり見た事がないので、ちょいと意外でした。

教会の外のベンチでお昼のサンドイッチを食べた後、今度は、「ネイランドのそばの場所」へ、丘を登って向かいます。墓地を掃除していたおじさんに、「ストーク・バイ・ネイランドまで、これから歩く。」と言うと、「え、3マイルはあるよ。登坂だし。」鍛えぬいた大根足で、3マイルくらいは軽いものです。

ストーク・バイ・ネイランドのセント・メアリー教会の塔は、その小高い丘の上にあるという場所柄から、周囲から、それはよく見えます。こちらも、コンスタブルのゆかりの教会で、内部に彼の絵はありませんが、彼は、丘の上に立つ、この教会を、キャンバスに残しています。彼にとっては、スタワー川と同じく、なじみの風景だったのでしょう。周辺のどこからでも見える、というのは、歩いていて目印になりますし。

最後の一息の上り坂は、空へと続く気分。教会の塔がおいで、おいでと呼んでいる。

教会すぐわきの立派なハーフ・ティンバーの建物は、かつてのギルド・ホール。その密集度は、ネイランドほどではないですが、やはり中世の雰囲気の愛らしい建物は満載です。

村のはずれ、スタワー川の支流であるボックス川(River Box)が流れるそばまで歩きましたが、途中、道の傍らの緑地に、半分埋もれていた、この巨大な石は、なんでも氷河時代にここまで運ばれ、氷が去った後は、そのまま置き去りになったものなのだそうです。

バスを待つ間、バス停のそばの小さな本屋さんにひやかしで入りました。周辺のガイドブックやウォーキングの本などもあり、スタワー川に関する本なども置いてあり、しばし立ち読みした後、一瞬、買おうかなと思いながら、買わなかった・・・今になって買えばよかったと後悔していますが。週に、2,3日しか開けないような、半分趣味でやっている風のお店で、オーナー風の人物が、外の椅子でのんびり本を読んでいました。

夏休みも真っただ中だというのに、サフォーク州などは、観光客風な家族連れなどほとんど見かけず、ハイキング中に会ったのも、犬を散歩させる地元民おじさん一人だけ。もっとも、サフォーク内でも海岸線には、もっと人出があるのかもしれません。

先日、ニュースで、ヴェニスの住民が、観光客の数があまりに増えすぎて、もううんざりだ、と悲鳴を上げており、そのうちに、人気の美術展覧会よろしく、時間制にして、観光客を制限したらどうた、というすごい話も持ち上がっていると言っていました。過去の遺産と観光で食べている場所ですから、観光客は必要なのでしょうが、難しいところですね。この辺りの住民はそんな心配も一切ない感じです。のんびり、ゆっくり、歩いて、立ち止まって、かわいい家と景色をながめ。今年の夏は、こうして、サフォーク州の村々をいくつも渡り歩いています。

コメント