おとぎ話の終わりは

有終の美を飾る、終わり良ければ総て良し、立つ鳥鳥跡を濁さず、引き際が肝心・・・などなど、最後をきれいに決めようという諺はたくさんあります。おとぎ話も、主人公が幸せをつかんでめでたしめでたし。

ロンドンのストラトフォードで行われていた、世界陸上選手権も本日で幕を閉じます。本大会をもって、陸上界の大スター、ウサイン・ボルトが引退を宣言。イギリスで過去最も成功した陸上競技者モー・ファラーも、メジャーな大会においてのトラック競技からの引退となります。2012年のロンドン・オリンピックでは、今回と同じスタジアム内で、100メートル、200メートルで金を獲得したボルトと、10000メートル、5000メートルの金を得たモー。

リオ・オリンピックで引退をせず、第2の故郷というロンドンを引退場に選んだウサイン・ボルト。彼としては、100メートルで、できれば金、400メートルリレーでは、メダルは得なくとも、ファイナルに出場し、最後は、ジャマイカのチームメイトたちと、ゆっくりスタジアムを一周して、ファンにさよならをすることを考えていたのでしょうが・・・先週の100メートル決勝では、ドーピングの経験からスタジアムの観客から、盛んにブーイングを受けていた米のジャスティン・ガトリンに負けて銀。おとぎ話の主人公が、悪役にしてやられてしまった。昨日のリレーでは、ジャマイカ・チームのアンカーをつとめて、バトンを受け取り走り出した瞬間は、「お、抜けるんじゃないか?もしかしたら、ジャマイカ、メダル取れるかな・・・」と思われたのに、いきなり、左足ふともも裏のケガで、倒れ込み、棄権。しかも、ちゃんとしたサヨナラもなく、びっこを引きながら競技場を去る結果に・・・。

モー・ファラーは、先週の10000メートルでは、しっかり金を獲得。昨日の5000メートルでも金を取って、今回メダルの数がとても少なかったイギリスに貢献してくれるだろう、と多くのイギリス人の期待がかかっていました。が、こちらも、銀。銀だって取れればいいじゃないと思うのですが、おそらく、本人も、観客も、更なる金のダブルを期待していたので、ちょっと気抜け。ファンの期待が高いスーパースターたちも、それに応えるのが大変です。また、本人たちが頭に描いていた、「そして、この二人は、ロンドンで有終の美を飾って、トラック競技からの見事な引退を果たしました。めでたし、めでたし。」が、実現できず、今は、何を思っているのでしょうか。リオの輝ける瞬間でやめときゃ良かったと思ってるのでしょうか。いずれにせよ、人生も、スポーツもおとぎ話ではない、思うようにいかぬことも、予想していた筋書が外れることも多々ある・・・という教訓のような顛末となり、それは、それで、物語になる気もします。

予想していた筋書が外れる、と言えば、昨日のリレーでは、イギリスが思いもかけぬ金を獲得し、ロンドンの観客には、それなりに満足いく結果とはなったのです。ボルトのケガによるジャマイカの棄権と、イギリスの金のハプニングに気を取られ、私は、しばらく日本がリレーで銅を取ったのにも気が付かなかったのですが。イギリスは女子400メートル・リレーでも予想より上の、銀をとったため、メダル・リストでの地位もぐんと上昇。

終わりの後には、また、初めがやってくる。はじめが肝心・・・なんていう言い回しもありますね、そういえば。ちょっと、こけてしまった終わりから、ボルトの第2の人生はどんな展開になるのか。この後は、マラソンに専念するという話のモー・ファラーは、マラソンで、また同じくらいの成功を収められるのか。他の職業の人間から見れば、まだまだ若いし、一般人の人生に比べれば、すでに、きら星のようなキャリアの二人です。

このロンドン世界陸上選手権大会を機に、ボルトのドキュメンタリーがテレビでかかっていて、見たのですが、常時、ケガや、体調のコントロールが、陸上競技者にとって、どんなに大変かという様子が描写されていました。彼のジャマイカのコーチが、とても哲学的な人で、トレーニングの過程自体が、ひとつのジャーニーだ・・・なんて事を言っていた記憶があります。中途が肝心、なんていう諺はないのですが、中途の、公の目には見えない部分での努力あっての、スタジアムでの晴れ姿。そして、有終の美とは違った、ロンドンでのずっこけ終わりも、旅の一環。後で思い返して、笑える日も来るさ・・・。とりあえずは、この二人には、陸上を楽しいものにしてくれてありがとう、第2の人生の旅路も、時に、こけたり、失望したりしながらも、実のあるものであることを祈っています、と言いたいところです。

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これと同時に、アメリカから入って来たニュース。ヴァージニア州のシャーロッツビルで行われていた白人至上主義者たちの集会と、反対グループのこぜりあいが悪化し、死者が出るに至ったというもの。白人至上主義者・・・って、何をもって自分たちを「至上」だなどと思うのか。オリンピックにしても、陸上選手権にしても、米をはじめ、先進国では、大半が黒人選手の活躍でメダルをもらっているというのに。彼らがいなかったら、メダル・リストの上位に上がるのは無理じゃないかと思うほど。

もっとも、陸上競技というのは、あれだけメダル獲得数の数が多いながらも、合衆国では、あまり国民に人気がないのだそうです。200メートル、400メートルで、まっすぐ背筋を伸ばして走る姿が独特であった、かつてのチャンピョン、米のマイケル・ジョンソン氏は、五輪や陸上選手権の度に、イギリスのBBCに招かれて、イギリスでプレゼンターを務めています。今大会の放送でも、マイケル・ジョンソンは、毎晩、テレビに登場、いまや、アメリカでよりもイギリスでの方が、知名度が高い感じ。彼は、解説も上手く、切れ味良く、BBCの陸上放送にかなりの花を添えているのに、米の白人至上主義者たちは、彼のような人間より、自分の方が優れていると本気で考えてるんでしょーかね。黄色いお肌の私たちも、お猿みたいなもんで。たまたま白人に生まれた事にしか、自分の存在価値を見出せない人間には、他人種を貶めるより、もっとためになり、打ち込める事を探して欲しいものですが。

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追記(2017年8月13日、夜)
ロンドンの大会が今さっき幕を閉じました。昨日、足を痛めた直後、ファンに、サヨナラができなかったウサイン・ボルトは、閉幕前に、姿を見せて、スタジアムを一周回ってのご挨拶。さすがの彼も、最後だからか、かなりまじめな面持ちで、手を振っていました。さよならー!毎日のように、満員で、盛況ぶりを見せ、何やかやと、ハプニングもありましたが、それなりに面白いロンドン大会でした。夏も後半です・・・。

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