サットン・フーのヘルメット

1939年、サフォーク州サットン・フー(Sutton Hoo)。周辺の地主であったエディス・プリティー婦人は、自分の土地にある幾つかの古墳風のぽっこりとした小山の調査と発掘を、地元の歴史家に依頼。そうして、掘り起こした古墳から出てきたのは、なんと7世紀アングロサクソン時代に遡る27メートルの船の残骸。定かではないものの、イースト・アングリア地方一帯を支配した王、レドウォールド(Raedwald)が内部に埋葬された船墓とされています。

船内からは、数々の貴重な埋葬品が共に発掘。戦士にふさわしい剣や盾の他、金や銀のブローチ、皿、リラ、角でできたカップ・・・これらの中でも、最も有名なのが、上の、儀式用ヘルメット。アングロサクソンの戦士、というと、すぐにこのサットン・フーのヘルメットを頭に浮かべるのは、この国では、私だけではないはずです。発掘品は全て、国に寄贈され、現在は、大英博物館に展示。ヘルメットは、館内のイギリス関係の展示物の中では、おそらく、最もアイコニックで、最も大切な一品のひとつ。

この船墓は、墓掘り泥棒に荒らされた形跡も無く、全て埋められた時のまま。まさに、タイムカプセルを開ける様な作業であった事でしょう。ただし、上のヘルメットの写真からも分かるように、一部の発掘品はかなり朽ちてしまっています。このヘルメットも、大英博物館の研究所で、ボロボロの破片を、ひとつひとつ継ぎ合わせて、時間をかけて再生されたとの事です。また、船の中心部に置かれていたであろう王の遺体自体は、周囲の酸性土により消えて無くなってしまい。遺体が置かれていた辺りには、おそらく王の皮のベルトにつながれていたという豪華な模様を施した財布の金具、そして625年頃の金貨が発見されています。あの世でも、お金に困らぬように、死体にもお財布を付けていた、ということでしょうか。埋葬品の中には、海外からの品も含まれ、海外との物流が盛んであった事も忍ばせています。

上の写真は、朽ちる以前のヘルメットは、こうであったろう、というレプリカ。

1939年と言えば、第2次世界大戦勃発の年ですので、それは大忙しでの探索で、この際には、王の船墓の納まった古墳と、やはり小規模の船が埋められていた古墳(こちらは、1860年にすでに簡単な調査が行われていたそうです)の発掘のみで終わっていますが、サットン・フーにある古墳は全部で19。残りの発掘は、戦後、しばらく経ってから行われる事となります。これにより、埋葬品に囲まれた若者の骸骨と、馬の骸骨を収めた墓が、隣り合わせに埋められているものなども発見されています。キリスト教がイギリス全土に根を下ろし始める過渡期の、まだ異教の影響を残す古墳たちです。

発掘現場のサットン・フーの土地自体は、1998年に、ナショナル・トラストの手に渡り、現在は一般公開されています。

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船に死体を収める・・・というと、J.R.R.トールキン作「指輪物語」で、ボロミアが、ホビットのメリーとピピンを守る為、多くのオーグ達と戦って死んだ際、仲間達が、小船に彼の身体を収め、川に流すくだりなどを思い起こします。原作の中では、小船に、ボロミアの剣とヘルメット等の他、ボロミアが殺したオーグたちの武器を、最後の戦いの記念の品として、船に収めて、川へ流すのでした。

コメント

  1. こんばんは
    今日は禅寺で写経をしました。座禅も興味があります。なかなか面白かったですよ。
    船に埋葬されるのはバイキングなどもそうですよね。黄泉の国ははるか海の彼方なのかもしれませんね。ヘルメットは造形的にも完成度が高いですね。指輪物語は娘のバイブルです。多感な少女時代にどれだけ影響されたか。今も彼女の精神構造の支柱になっている事でしょう。私はヘルマンヘッセだったように思います。

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  2. トールキンもアングロサクソンも、バイキング戦士文化の影響は受けているようです。

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