The Go-Between 恋

"The past is a foreign country: they do things differently there"
(過去は異国である。そこでは、人は、現在とは違う振る舞いをする。)

という、それは良く引用される文章で始まる、L.P.ハートレー作の小説「The Go-Between ザ ゴービトゥイーン」(仲介者)。以前、オックスフォード大学の歴史の教授が、オックスフォード入学のための試験の一環としてのインタヴューで、学生に「どうして歴史を勉強したいのか?」と質問すると、この引用を使って「過去は異国であるから。」と答える学生が、うんざりするほど多いという話をラジオでしていたのを覚えています。教授は続けて、「引用はするものの、実際に、本を読んで、この話が、階級差と、それを道具にしたエクスプロイテーション(利用)を書いたものだと知ってる学生は、ほとんどいない。」と嘆いていました。

私も、原作は読んだ事はないのですが、この映画版は、とても気にっています。

「ドクトル・ジバゴ」のラーラ役で有名なジュリー・クリスティーとアラン・ベイツ主演。イギリスのノーフォーク州を舞台とし、先日、記事に書いたノリッチでも撮影が行われています。邦題は、ただ単に、「恋」だそうですが、少々、的をはずしているかな。

異国である過去は、ここでは、1900年。13歳の貧しい家庭の子供レオは、寄宿学校の上流階級の友人マーカスに、夏休みを、ノーフォークにある両親の館で過ごすよう招待される。

館の前の芝生で、ハンモックに横たわる、マーカスの美しい姉、マリアンを一目見てから、レオはすっかり彼女の魅力のとりこに。マリアンは、家族の者達に隠れて、館の敷地内の小作人、テッドと逢引を重ねていた。身分違いの恋というやつです。

そのうち、マリアンのためなら何でもしたいレオは、テッドとマリアンの間の手紙のやりとりの仲介者となります。ノーフォークの田園風景の中、レオは、館からテッドの住むコテージへ、コテージから館へと、手紙を持って走る。

初めは純粋にマリアンを喜ばせたい一心だったレオは、手紙の内容の意図する事と、2人の関係に気づき、このメッセンジャーの役をしぶり始める。

そんなレオに、マリアンは、今までの、やさしいお姉さん振りをかなぐり捨てて、「何よ、どこの誰かも良く知らないのに、家に泊めてやって、食べ物を与えて、服を与えて、面倒を見てやったのに、私の簡単な頼みも聞けないって言うの?お金が欲しいわけ?いくら欲しいのよ!」

あー、怖い。愛欲に狂った女性は怖いのです。美女だと余計に危機感迫るものがあり。自ら、身分違いの恋に悩みながら、目的達成のため、社会的地位の低いレオの、肩身の狭さにつけこんで、いじめる・・・。思慕を寄せる女性から、「お金が欲しいの?」と侮辱され、泣きべそをかきながら、マリアンの手から手紙をひったくり、テッドの小屋へ走るこのシーンのレオは、本当に可愛そうです。

最終的に、マリアンは、社会に逆らえず、貴族の出のヒュー・トリミンガムと結婚する事になり、テッドとの関係は悲劇に終わる。

この夏の経験が、心の深い傷となり、レオは、他人との親密な関係を持つ事ができないまま人生を過ごしてゆく事に。中年になった彼が、再び、年老いたマリアンに会い、再度、最後のメッセンジャー役を頼まれるところで映画は終わります。

***

この映画内で、館の一部荒れた庭に生える植物Deadly Nightshade(ベラドンナ、英語直訳は、致命的夜影)に、何度かスポットライトが当たります。

名の示すとおり毒草で、植物のほぼ全体に毒性があるようです。特に、ぴかぴかしたチェリーの様な黒い実は、2,3個食べただけで、人間の子供が死ぬほど強烈なものだそう。何故か、雉などの鳥は、この実を食べても平気のへいざだという事です。この植物のラテン名は、Atoropa belladonnaで、belladonnaは、「美しい女性」の意。美しいながらも毒気を持つマリアンの暗喩でしょう。

館に到着したばかりのレオは、ノーフォーク・ジャケットという、厚手のジャケットを着ています。もともとは狩猟用に作られたジャケットで、そのうち、子供用の服としても人気になったのだということ。

ノーフォークで、記録的な暑さとなった夏、という設定で、ノーフォーク・ジャケットを着て、暑さにゆだってしまったレオに、夏服を買ってあげようと、(そして密かにテッドに会うため)マリアンが、レオをノリッチへ買い物へ連れ出す場面がありました。買い物を済ませると、テッドと会うために、マリアンは、レオに「私は用事があるから、大聖堂ででも、時間つぶしできる?」。聖堂内を歩くレオの姿を、天井から写したものがありましたが、天井の高さが良くわかるショットでした。

マリアンが封をするのを忘れたテッドへの手紙を、レオが読んでしまう場面のビデオを見つけました。こちらまで。音楽が、また綺麗でいいのです。

100年前も今も、イギリス内の町並みや田園風景には、ほぼ変わらなく見える場所があるものの、身分違いの恋は、さすがに可能になった今日。プリンスですら、一般市民と結婚するご時勢です。

原題:The Go-Between
監督:Joseph Losey
言語:英語
1970年

コメント

  1. 映画も原作も知りませんでした。身分違いの恋は「贖罪」を、お金持ちの家に招待されるというのは「カミングホーム」を思い起こさせました。「女性は怖い」、そう思わせる騒ぎが最近日本でありました。そんな女性にはなりたくないものです。

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  2. 最後のメッセンジャーに託した手紙には何が書かれていたのか、、、。
    atoropa belladonna、何だか覚えがあるなあと思ったら薬用植物ですね。眼科で検査や手術の時、瞳孔を開いた状態にする薬。それにサリン中毒の解毒剤としても使われたものです。
    まさに毒と薬は紙一重ですね。

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  3. アネモネさん、
    アマゾンジャパンで見たら、VHSのみでDVDが出ていない模様。原作の翻訳も売っていない様子でちょっと驚きました。
    出だし文は、良く知られた一節で、以前、ラジオで、オックスフォードの歴史教授が、面接で生徒に、何故、歴史を勉強したいか、と聞くと、The past is a foreign country・・・とやりだす人物が多く、いささかうんざり、という様な話をしていた記憶があります。

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  4. 恋さん、
    テッドは、事が発覚した後、ライフルを口にくわえて自殺するので、最後のメッセージは、伝言で、マリアンとテッドの間にできた息子へのものでした。
    atoropa belladonnaが薬にもなる話は面白いです。何でも、実は甘い味なのだそうで、それもまた、この植物と、マリアンの2面性といった感じ。

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  5. こんにちは
    この映画、面白そうですね。イギリスの伝統的なテーマなのかしら?ジュリークリスティーはイギリス人なんですね。最近はネバーランドで気位の高い貴族の母親役でとても素敵でした。若い頃より魅力的ですよね。最新作でも認知症の老婦人でゴールデングローブにノミネートされていたと思います。あこがれ?ちゃいます。
    ベラドンナは日本でもみかけます、ベルフラワーとか言って庭に植えている人います。猛毒とは知られていないようです。瞳を大きくさせちゃうようですね。

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  6. Finding Neverlandも、大体時代設定は同じ時期のはずです。彼女は、スリムなボディーと、品の良い顔立ちで、あの頃のドレスが良く似合います。20世紀初期、エドワーディアンのイギリスのコスチュームドラマ、映画でもテレビドラマでも、いまだ人気。ノスタルジアでしょうか。
    ベラドンナ、毒と知らずに庭に植えるのは子供がいる家庭は、少々、危ない気がしますが。

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