七面鳥とガチョウ~小説「クリスマス・キャロル」の風景

Turkeys do not vote for Christmas.
(七面鳥は、クリスマスに賛成投票を入れない)
という表現があります。

「人は、自分の不利になる事、自分の首を絞めるようになる事には賛同しない」、という意味で使われるものです。上の写真の七面鳥は、動物園で撮ったので、この方は、クリスマスの心配をする必要は無いですが。

昔のイギリスでは、七面鳥(ターキー)より、ガチョウ(グース)がクリスマスに食べられていたようです。有名なナーサリー・ライムにもこんなのがあります。

Christmas is coming,
the geese are getting fat
Please put a penny
in the old man's hat

If you haven't got a penny,
a ha'penny will do
If you haven't got a ha'penny,
then God bless you!

クリスマスがやって来る、
ガチョウが太ってきた
老人の帽子に
1ペニー落としてやっておくれ

もし1ペニーが無いのなら、
半ペニーでもかまわない
もし半ペニーも無いのなら、
神の御慈悲があるように!

前のクリスマス・プディングの記事でも触れた、ディケンズの「クリスマス・キャロル」は、ヴィクトリア朝のクリスマスの様子を知るには、もってこいの文献です。

「クリスマス・キャロル」内で描かれているクリスマスの風景や習慣は、100年も200年も続いて、すでに定着した伝統のイメージを受けますが、実際、ディケンズの時代に、今の馴染みのクリスマスの姿が、徐々に形つくられていった様です。

けちで、クリスマスなど糞食らえのスクルージの下で、こきつかわれながら働くのは心優しいボブ・クラッチット。貧しいクラッチト家での、クリスマスの食卓の主役は、ガチョウ。砲丸の様なホーム・メイドのクリスマス・プディングも、このクラッチット家の食卓に登場します。

船乗りのウィリアム・ストリックランドが、新大陸で、原住のインディアンから七面鳥を6羽購入し、イギリスへ持ち帰ったのは、1526年のこと。この事から、彼は、後に、七面鳥を自分の家紋に加えたと言います。入手の難しさから、七面鳥は、当然、しばらくは、金持ちの食べ物で、ヘンリー8世などの食卓にも登り。後に、イギリスのノーフォーク州などでも飼育されるようになりますが、ヴィクトリア朝労働階級のクリスマス・ディナーは、まだ七面鳥より、安めのガチョウだったと言います。ガチョウにしても貧民には、高価な食べ物で、クリスマスにガチョウを買える様にと、お金を少しずつ積み立てる、グース・クラブと呼ばれる協会も存在したという事です。彼らにしてみれば、クリスマスは、自分たちの経済力の許す範囲で、一年で一番のご馳走を食べた日ですから。

3人のクリスマスの精霊たちに、自分の過去、現在、未来を見せられ、すっかり改心し、クリスマス精神に溢れた善人に生まれ変わったスクルージは、さっそく肉屋から、店で一番大きな七面鳥を注文し、クラッチット家にプレゼントします。今では、万人が購入できるような手ごろな価格となり、ガチョウよりも、サイズが大きいのと、おそらく飼育や搬送がしやすいのも手伝い、クリスマス・ディナーは、すっかり七面鳥が主流です。

クリスマス・キャロル挿絵入り英語の原作を、読めるサイトはこちら。

オリジナル挿絵は、ジョン・リーチ(John Leech)。日本にいた時読んだ翻訳物にも、彼の挿絵が使われており、私が初めて抱いたイギリスのクリスマスの印象は、この人の挿絵から。特に上にも載せた、陽気な第2の精霊が現れるシーンの挿絵は好きです。

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さて、改心する前のスクルージがクリスマスをけなして言うセリフは、
「Bah, humbug!」
(ふん、何たる空騒ぎ!)
発音は、バー、ハンバグ。食べるハンバーグとは別物です。

今年もらったクリスマスカードの中に、上の写真の物があり、大変気に入ってしまいました。この白黒ストライプのひまわりの種の様なものは、スペルもまるで同じのハンバグと呼ばれるキャンディーです。外側はミント味で、中にキャラメル状のものが入っています。こちらのハンバグは、スクルージのハンバグとは、まるで関係無いのですが、このカード、ユーモラスで、今年もらったクリスマスカード最優秀賞をあげたいところです。

私も、早くは10月終わり頃から、騒ぎ始めたり、商戦が始まる、現代のこの国のクリスマスには辟易で、時折心で「バー、ハンバグ!」を唱えます。それでなくても、首までどっぷりの借金国なのに、「クリスマスじゃ、それ買え、あれ買え」、とクレジットカード振りかざしての大盤振る舞い・・・。それこそ、以前あった、借金返済が出来ない人を閉じ込める、Debtors' Prison(債務者監獄)でも、復活させて欲しいところ。

先日、クリスマス聖歌であるキャロルの歴史を探るドキュメンタリーを見ました。イタリアのアッシジの聖人、聖フランシス(Saint Francis)が、クリスマスが好きで、クリスマス・キャロルは、フランシスコ派修道僧たちにより、中世のイギリスに持ち込まれたようです。以来、イギリス独自の数々のキャロルが時代を経て生まれていきます。番組の中で、「クリスマス・ツリーはドイツから、ターキーはアメリカから、キャロルはイタリアからもらった」と言っていました。

ディケンズの「クリスマス・キャロル」の中で登場する、唯一のキャロルは、私も大好きな「God rest you merry, gentlemen」です。スクルージの職場のドアに現れた貧民が、このキャロルを歌いだすのですが、1節歌っただけで、スクルージが、たいそうな剣幕で卓上の定規を取り上げ振りかざし、このキャロル・シンガーは、恐れをなして逃げ出します。

God rest you merry, gentlemen,
Let nothing you dismay,
For Jesus Christ our Saviour
Was born upon this day,
To save us all from Satan's power
When we were gone astray:

O tidings of comfort and joy,
comfort and joy,
O tidings of comfort and joy.

諸侯、気を安らかに
何物にも煩わされることなく
救い主イエスが
この日に生まれ
我ら全てを悪魔の力より守りたまう
我らが道を踏み外した時

ああ、憩いと喜びの便り
ああ、憩いと喜びの便り

God rest you merry, gentlemenを聞いてみよう。

クリスマス=ショッピングの図式は忘れ、クレジット・カードは忘れ、豪華プレゼントはさておき、クリスマスは、やはり、しんしん雪降る中、暖炉を囲んでクリスマス・キャロルなど聞きながら過ごすイメージが良いのです。私は、キリスト教徒でもなく、我家には暖炉は無いのですけれど・・・。

*この記事は、ヤフー・ジャパンで2008年12月5日に投稿した「バー・ハンバグ!」の書き直し、付けたしをしたものです。

コメント

  1. こんばんは
    クリスマスの七面鳥はなかなか日本では手に入りません。私の英会話の先生はアメリカ人ですが、諦めてチキンにすると言っていました。残念そうでした。クリスマスキャロルはとても気に入りました。ハンバグも美味しそうですね。  良いお年をお迎え下さい。

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  2. うちも、七面鳥は、クリスマスちょっと前にレストランで食べただけで、オブンの調子が悪いのも手伝い、家ではやりませんでした。
    日本の大晦日は、何でも、スコットランドのスーザン・ボイルが紅白に登場するという話を耳にして、びっくりしています。

    せつこさんも、良いお年を。

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