あなたは、本当はどこから来たわけ?


先日、バッキンガム宮殿で、カミラ王妃が、女性に対する暴力に反対するキャンペーンを支持するため、そうした関係の慈善団体の代表など約300人を招いた集いを催しました。・・・そこまでは、良かったが・・・

この最中に、故エリザベス女王の女官であり、ウィリアム王子のゴッドマザー、さらには現在も王室で務めを果たしていたレーディー・スーザン・ハッシーなる女性は、とある慈善団体のリーダーで、イギリス生まれでイギリス国籍の黒人女性に話かけ、執拗に、「あなたは、本当はどこから来たわけ?」と、聞いたという事がニュースとなり、レーディー・ハッシーはレイシストの汚名を着て、瞬く間に辞任、現代社会にマッチしたポジティブなイメージを作りたいところの王室側の反応も早く、「今の時代にレイシズムは許せない。当事者が辞任したのはもっともである」ような内容を発表。

と、これだけのニュースを聞いた段階では、私もだんなも、「また、自分の人種に、かなり神経質になっている人のオーバーリアクションかな。ただ、何気に、どこから来たの?って聞いて会話を続けようと思っただけの話なんじゃないか。」なんて思っていましたが、詳細を読んでみると、たしかに、その執拗さに悪意を感じ、これは、まずい、気を悪くしたのも当然か、と思い直しました。以下が、BBCサイトに載っていた、会話の内容。Lady SHは、レーディー・スーザン・ハッシー、Meというのは、被害にあった黒人女性です。訳は私が勝手につけました。

Lady SH: Where are you from?

あなたは、どこから来たの?

Me: Sistah Space.

シスタ・スペースです。(これは慈善団体の名)

SH: No, where do you come from?

そうじゃなくて、あなたは、どこから来たの?

Me: We're based in Hackney.

ハックニー(東ロンドンの地区)が、私たち団体の拠点です。

注:この段階まで、彼女は、団体の活動内容についてでも聞かれると期待していたのでしょうね。ところが・・・

SH: No, what part of Africa are you from?

そうじゃくて、あなたは、アフリカのどこから来たわけ?

Me: I don't know, they didn't leave any records.

わかりません。記録がないので。

SH: Well, you must know where you're from, I spent time in France. Where are you from?

うーん、自分がどこから来たかくらい知っているはずよ。私はフランスで一時過ごしたことがあるわ。で、どこから来たわけ?

Me: Here, the UK.

ここ、英国です。

SH: No, but what nationality are you?

違うのよ。国籍はどこなの?

Me: I am born here and am British.

ここで生まれたので英国です。

SH: No, but where do you really come from, where do your people come from?

違うの。本当に来たのはどこなの?あなたような人たちはどこから来たわけ?

Me: 'My people', lady, what is this?

私のような人たち?それ、どういう事ですか?

SH: Oh I can see I am going to have a challenge getting you to say where you're from. When did you first come here?

ああ、なるほどね。あなたにどこから来たか言わせるのが、こんなにも大変なことだとはね。初めて、ここに来たのはいつ?

Me: Lady! I am a British national, my parents came here in the 50s when...

レーディー!私は英国人(ブリティッシュ)です。1950年代に、私の両親はここに来て・・・

SH: Oh, I knew we'd get there in the end, you're Caribbean!

ああ、最終的にはこうなるってわかってたわ、あなたはカリブ諸島の人間というわけね。

Me: No lady, I am of African heritage, Caribbean descent and British nationality.

いいえ、レーディー、私はアフリカの歴史を持ち、カリブ諸島の祖先をもつ、英国民です。

SH: Oh so you're from...

ああ、それじゃあなたは・・・云々

更には、この会話が始まる前に、レーディー・スーザン・ハッシーは、いきなり、この黒人女性の髪の毛を触って、それを胸のあたりから払いのけ「名札が見えないから。」と言ったそうです。これ自体、初対面の人間に対し、かなり失礼な行為。そして、集いの目的とは全く関係ない、個人への尋問へとまっしぐら。

私は、あまりどこから来たの?などと初対面の人に聞かれた経験はありませんし、あっても、戦後の日本の、海外での好イメージのおかげで、「日本人」というのに躊躇は全くありません。むしろ、日本の話ができるので、聞いてほしいくらい。実際、日本国籍捨てて、英国籍を取る気なんぞ皆目ありませんしね。ただ、海外で政治的にブラックシープ的存在に見られている国の出身だったりすると、聞かれるのが嫌だというのは理解できますし、実際、肌の色がどうあれ、この国で生まれ育って、「ほんとのほんとは、どっから来たの?」と言われる事が、どの程度不快であるのかも理解していないところもあります。聞き方もあるとは思いますがね。その人の、オリジンにとても興味を持って、聞く場合もあるだろうし。何気に、会話のつなぎとして悪意なく聞いてしまって、むっとされて終わるという事もある。むづかしいもんです。

ただ、上の会話が本当だとすると、このケースには、根底にかなりねちっこい意地悪さを感じます。白人エリート上流社会で育ってきた人間の傲慢さと共に。そして、会合の目的、そのために、自分がイギリス王室を支えるスタッフとして、参加者とどういう話をすべきかも理解していないという愚鈍さもあります。こいつは、のこのこ宮殿まで来て、英国人づらしてるけど、しょせんアフリカかカリビアンの貧民だったんでしょ、暴露してやる、みたいな態度をむき出しにして。被害者の黒人女性曰く、女性に対する暴力に反対するというのが会合の目的であったけれど、暴力というのは、行動だけでなく、こうした攻撃的な言葉も含むという話をしていました。

この黒人女性も、しつこくからまれた後に、

「そうなんですよ、レーディー、私の祖先はね、中央アフリカの人食い人種で、あなたみたいな、なまっちろい老婦人の肉なんかは、長生きの万能薬として、生で食べたりするんですよ。ひひひ!」とか言って、彼女の周りで、うほうほと踊りを踊って、その反応を楽しんで、こばかにしてやればよかったのに、なんて思いますが、受けた侮辱に対して、咄嗟にそういう諧謔を含んだユーモアでやり返すなんて、なかなかできるものではない。その他には、「人類の起源はアフリカですからね、あなたも私も、本当の本当はアフリカから来たんですよ。」と言ってやるという手もあります。

この事件があってから、スパイスガールズのデビュー曲ワナビーの歌いだし、

So, tell me what you want, what you really really want

の部分を、

So, tell me where you are from, where you are really really from

と替え歌にしたものを、だんなが、やたら、ふざけて何回も歌うので、私の頭の中でもこれが鳴りやまない。

また、だんなの昔の同僚だった、韓国系アメリカ女性(アメリカで生まれた2世)のドイツでの経験の話が思い出されました。一時期、彼女が仕事でドイツ南部にいた時、意地の悪そうな女性から、「あなた何人?」と聞かれ「アメリカン」と答えると、「そうじゃないでしょ?本当に来たのはどこよ?」と、頭の上から下までなめるように見やられて、聞かれ、「レイシストめ!」と、腹が立ったと言ってましたっけ。まあ、これは、もう今から30年くらい前の話なので、ヨーロッパのこうしたことに対する現状は、今は向上しているでしょうが。特に若者の間では。

日本も、今後、他人種が増えていくかもしれません。「あなたは、本当はどこから来たの?」も、会話内での聞き方次第では、その人にイヤーな思いをさせるかもしれません。まあ、そう聞かれた側も、聞き手の意図に悪意がなく、純粋な好奇心であれば、あまり神経質になってほしくはないなという気持ちもありますが。

コメント

  1. はい、BBCニュースで見ました。あの尋ね方の内容は、かなりマズイ。「やっちまったね~」が正直な感想です(苦笑)。 女官はお仕事でもあるでしょうが、名誉職でもあるでしょうから、まあ晩年にきて、西欧では不名誉な『人種差別』の汚名を着ての辞職は、自業自得とはいえ、憤懣やるかたないでしょうねぇ。もし私が尋ねられたら、なんて答えようか…捻りのあるアンサーを用意しなければと思います。

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    1. Wokeやブラック・ライブズ・マターの支持者が、時に、何気なく言った言葉を逆手にとって、徹底的にそれを言った人を叩きのめそうとするあまり、今まで、差別者でも何でもなかった一般人が、そういう動きに反感を持ち始めているという事態もありますしね。だから、最初は、この事件も、また、ちょっとした事でのつるし上げと思ったのですが、内容読んだら、これは文句言われて仕方ない感じ。相手に悪意がない場合は、糾弾する側も、理解と妥協は必要であるとは思いますが。でないと、せっかくの人種差別反対運動も逆噴射するでしょうから。

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