イギリスの赤い郵便ポスト

イギリスの街並みを歩いて目に入る赤いもの・・・過去「イギリスの赤い電話ボックスの歴史」という投稿をしましたが、残念ながら電話ボックスはもはや、以前の目的で使われているものはほとんどない。赤いもので、現在も同じ目的で立ち続けるのは、赤い郵便ポスト。今回はこちらの歴史をざっと書いてみます。

以前にも、当ブログで紹介した、ローランド・ヒルという人物により行われた、全国一律、1ペニーの切手で配達を行う事を含む、当時はGPO(Genral Post Office)と呼ばれた郵便局の改革により、手紙というものが、日常的に使用され、広がっていく中、さて、それを回収する場所となると、以前の通り、自ら、いくつか点在する回収場所へよっこら歩いて持っていく必要がありました。住んでいる地域によっては、かなりの距離を歩く事もあり、不便極まりない。

そこで、大陸ヨーロッパで行われていたという、鍵のついた、鉄製の収集箱をある程度の間隔を置いて、道路わきに設置するというアイデアを導入。これを考え付いたのは、当時GPOの職員として働いていた、英作家のアントニー・トロロープ(Anthony Trollope)。彼は、チャンネル諸島や、南西イングランドで、郵便配達ルートの調査や確立などの仕事をしている時期があったそうで、そのため、英国初の郵便ポストは、チャンネル諸島のジャージー島に設置される事となります。1852年11月の事。翌年には、イギリス本土にも設置され始めます。ジャージー島の、郵便ポスト第1号は、赤色であったようですが、その後、1859年くらいまでに形も色も一定化し、色は、殆どが、当時ファッショナブルであったとかいう濃い緑色であったのだそうです。

ただし、ロンドンなどの大都市ならともかく、田舎で緑となると、風景に溶け込んでしまい、遠くから見ると、それとはっきりわからないため、見つけにくいという問題が浮上。そこで、カモフラージュでもあるまいし、「やっぱり目立つ赤がいいんじゃないの?」となったようで、1884年くらいまでには、新しいものは赤、古い物も塗りなおしが行われ、現在に至っています。

イギリスの郵便ポストの形は、最初は6角形などもあったようですが、主に鉄製の円柱型で、てっぺんは、投函口に雨が振り込まぬよう、丸型の浅い帽子のようなものでおおわれています。柱の様であるため、post boxと言うほかにも、一般にピラー・ボックス(pillar box、ピラーは柱の意味)と呼ばれています。時にレンガ塀に組み込まれた郵便ポストや、小さい長方形の箱が杭の上にのっているものなどもありますが。

赤色という事以外の特徴としては、それぞれ郵便ポストが設置された時の、王、女王のイニシャルが刻まれているという事。郵便局の情報によると、英国全土に、現在11万5千5百以上(うちイングランドには8万5千以上)の郵便ポストが存在するそうですが、当然、一番数が多いのは、現エリザベス2世時代の設置のもので、EIIRという文字がそれを示しています。Eはエリザベスのイニシャル、続くIIは2世、最後のRはラテン語で女王を意味するReginaを表します。その他、全体の15%が、エリザベス2世のおじいさん、ジョージ5世のもの。あとは、多い順に、ジョージ6世、ヴィクトリア女王、エドワード7世となるそうで。超レアものは、アメリカ人で離婚歴のあるウォリス・シンプソンと一緒になるため、王座に着いたものの瞬く間に退位したエドワード8世のもの。170個くらい残っているという事で、確かに割合としては少なくはありますが、それでも、1936年中の1年に満たない在位の間に、それだけ設置されて、まだ残っているというのも、ある意味では驚きです。また、郵便ポストには、通常、製造業者の名も、刻まれているという事です。

一番上の写真は、わが家から一番近い、歩いて3分ほどの場所にある郵便ポストですが、この根本(?)の部分に、冠を被ってEIIRとあります。このポストも、普段はどのくらい使用されているかわかりませんが、クリスマス時期になると、カードで満杯となり、クリスマスカード締め切り直前になると、口から手を入れると中の手紙に手が届くくらいになっている事もあります。

ネイランドの郵便局

とりあえず、エリザベス2世以外のものをみると、ちょっとみっけものしたような気になります。ネイランドという村を通った時、小さな郵便局の壁にはめ込まれたポストはGVIRとあり、ジョージ6世のものですので、写真をとりました。

Gはジョージのイニシャル、VIは6世、Rはラテン語で王を意味するRexを表します。

さて、郵便ポストの発案家、アントニー・トロロープという作家の作品、私は、一度読もうとして、最初10ページくらいでやめてしまった記憶があります。なんでも、GPO時代の経験を生かして、郵便やポストに触れた描写も作中によく出てくるという事です。「He knew He was Right」という1869年に書かれた作品の中では、この自分が導入した、新しい郵便ポストというものを毛嫌いする女性を登場させ、

この頃、設置されつつある、この鉄製のピラー・ボックスなる物(これは、彼女にとっては、最も憎むべき物であった)のひとつは、事もあろうに、彼女の屋敷の入り口のすぐそばに備えられた。彼女には、こんなものの中に入れられた手紙が目的地に着くとは毛頭信じられなかった。そして、人が自分の手紙を、信頼のおける郵便局へ自分で持って行かずに、こんな鉄の杭の様な物の中に落として平気だというのが理解できなかった。道中に置かれ、誰が見張っているわけでもないような物の中へ。彼女は家の者たちに、この館から出す手紙は、一通たりともこの鉄製ポストに入れてはならぬ、と厳格に命じた。

と書いています。(以上のくだりは私が英語から訳しました。)新しいものに不信を抱く人というのは、どこでもいつの世でもいるものです。

さほど歩かなくて済む、という他に、自分で収集所まで行き、受付の人にジロジロ見られながら、手紙を渡さずに済むというのは、若い恋するお嬢さんなどがラブレターを出したりするのには、有り難かったでしょう。

レトロのクリスマスカードにも、現在のクリスマスカードにも、赤い郵便ポストが組み込まれたデザインは沢山あります。やっぱり、絵になる物体なのです。上のレトロ・クリスマスカードには、1904年大英帝国の郵便配達人、という文字が書かれてあります。

さて、日本に似たような郵便ポストが設置された第一号は、ウィキペディアによると、1871年であったとあります。これが何でも黒であったそうですが、イギリスの影響を受けた、鉄製の赤色丸ポストが登場しだすのが、1901年なのだそうです。イギリスは、維新直後の日本に一番影響を与えた国なのでしょう。

まだ、時折ちらほら見ることができる丸ポスト。これは函館で見たもの。

千葉県佐原駅の前のもの。郷愁を誘われますね。

私の実家の近所の家の前には、飾りのように置いてあるのを、前回の帰国の時に見つけました。自家用と書いてあるのですが、受け取り用に使っているのでしょうか。たしかに、間違って投函してしまいそうです。

色々な他の伝達方法がある昨今でも、書き手の文字が読める手紙というものが無くなってほしくないなと思うものです。

コメント

  1. いつも楽しく読ませていただいてます。郵便ポストもイギリスが始まりなのですね。最近は手紙も葉書も書く人が少なくなったと思いますが、残したいですよね。

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    1. 今では、日本は年賀状、イギリスはクリスマスのみがポストが大活躍する時ですね。暑中見舞い、絵葉書なども、息を吹き返して欲しい気がします。

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  2. インターネットが行き渡った今でも、イギリスのグリーティングカード屋さんが健在なのは、素晴らしい事と、行く度に思います。大きな駅に行くと必ずカード屋さんが在って、すらりと並んだカードサンプルを見るのが、列車の発車までの、いい時間つぶしの場所になっていますが、こんなメッセージ用のカードまでが用意されているのかと、感心しますね。

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    1. 確かにカード屋は多いですね。うちの小さな町の中心でも、ざっと考えて3件ありました。それに加えてスーパーにもカードコーナーもありますし。ただ、度重なる長期のロックダウンの影響で、つぶれる店が増え、そういった店がどのくらい生き残っているか。

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