イースター・エッグ・ハント

今週末はキリストの復活を祝うイースター・ウィークエンド。

イースターというと、なにかと卵が登場します。卵は、キリスト教以前の時代から、豊穣、生命が芽生えるシンボルでもあり、キリスト教が確立してからは、殻を破るようにして、墓の中からよみがえったキリストの象徴でもあり。卵をきれいに装飾し祝うという習慣も、キリスト教とは別に、世界の色々な地域で、色々な折に行われていたようです。キリスト教に関しては、イースター前の四旬節(レントlent)の約4週間は、卵を含めた肉魚を食べないしきたりもあり、再び、卵を食べられるようになると、ここぞとばかりに、卵をきれいに飾ったり、塗ったりしたというのも、イースターと卵のつながりの由来のひとつ。

一方、やはり豊穣のシンボルであるウサギも、イースターに使用されるようになり、籠を抱えたイースター・バニーがきれいに塗られたイースター・エッグを届けにくる、などという話に発展。

学校も休みですので、子供たちを毎日楽しませるのに頭悩ませ、イースター・ホリデーの間に、各地で催されるイースター・エッグ・ハントに子供を連れて出かける家庭も多いことでしょう。敷地内にイースター・エッグを隠してあるのを、子供たちが探し歩くのですが、大体、昨今のこうした催しのイースター・エッグは、ゆで卵などではなく、チョコレート。

すでに17世紀あたりから、イースターには、卵の形をしたおもちゃに、お菓子などの贈り物をつめて子供にあげる、などという風習が始まっていたようです。最初に卵の形をしたチョコレートが作られるようになったのは、19世紀初頭のヨーロッパ(ドイツ、フランス)だと言われています。イギリスでは、1873年あたりに、とある製菓業者が作りはじめ、次々と他社がまねをし、現在のように、イースターというと卵やウサギを模したチョコレートがスーパーの棚にぎっしり勢ぞろいするまでに至ります。結果、イースター期間には、子供がチョコレートを、がばがば食べすぎると、問題になるほどに。最近のイースター・エッグのチョコレートは、真ん中は空洞で、外の殻の部分だけがチョコレートである事が多いですが、まだ製造技術が発達していない時代は、ごりっと、全部チョコレートであったようで、殻の部分だけをチョコレートにするには、ひとつひとつ、かなり手をかけて作る必要があったようです。どんな些細な、今は当たり前のものでも、そこにたどり着くまでの技術開発の過程には、苦労があったのでしょう。

イギリスのチョコレート会社の老舗キャドバリー(Cadbury)も、1875年にイースター・エッグ・チョコレートづくりに参戦。製造開始時のイースター・エッグはダークチョコレートであったのも、1905年から、キャドバリーが、もっと甘く、まろやかな味のミルクチョコレートを開発すると、イースター・エッグもミルクチョコとなり、その売り上げに大幅に貢献。現在のイースターエッグはほとんどの場合ミルクチョコレートです。ちなみに、キャドバリーをイギリス老舗と書きましたが、他の多くのイギリス著名ブランドと同じく、他国企業に買収され、今は、アメリカのクラフトフーズ社の所有です。

さて、このキャドバリーのエッグ・チョコレートが先日、ちょっとした物議をかもし、ニュースになっていました。過去10年間、イースターの休日の間、キャドバリーは、イギリス全国に歴史的な館や、自然保護地帯などの土地を有する慈善団体ナショナル・トラストとタイアップして、ナショナル・トラストの所有地内でエッグ・ハントのイベントを行っています。いくつかのナショナル・トラストの敷地内にキャドバリーのチョコレートをところどころに隠し、バスケットを渡された子供たちが駆け回って、探すという趣向。問題は、今年のキャドバリー・エッグ・ハントのポスター。

Join the Cadbury Egg Hunt
(キャドバリーのエッグ・ハントに参加しよう)

と書かれ、エッグの前にあるべきイースターという文字が外されている、とヨーク大主教がいちゃもんをつけたのが始まり。「キリスト教で一番大切なイベントであるイースターという言葉を外すとは、とんでもはっぷんだ!キリスト教創始者たちに唾を吐きかけるようなもんだ!」と怒り出した次第。え?でも、このポスター、真ん中に大きく、

Enjoy Easter Fun at the National Trust
(イースターをナショナル・トラストで楽しもう)

と書いてあるのに・・・。ヨーク大司教、往々にして、大企業を庶民の敵と見て嫌うタイプの感じなので、もともとキャドバリーとナショナル・トラストのタイアップ自体を面白くなく見ていたのかもしれません。こんな事に目くじら立てている間に、教会のサービスに常時参加する人間の数の減少、資金不足でぼろが出始めているイギリス各地の大聖堂の状況、過去のイギリス国教会の聖職者たちによる幼児虐待事件など、心配しなきゃならないこと、他にもいっぱいあるでしょうに。逆に、こんな事でぎゃーぎゃー騒ぐので、一般人の教会離れが進むのではないでしょうか。

さらには、テリーザ・メイまでがこれに迎合して、「イースターという言葉を落とすというキャドバリーと、ナショナル・トラストの判断は実にばかげている」と、のたまった。これは、後で、ラジオの政治諧謔番組で、「金のために、サウジアラビアなどに武器を売るのに必死の女性が、ナショナル・トラストがチョコレート会社とタイアップしてちょっとした利益を上げるのに対し、キリスト教的でないといちゃもんをつけるのも、どんなもんかね。」とおちょくられていました。

元来、イースター・エッグ・ハントなど、子供が楽しめるように始まったものですから、自然の中、卵探しをして、ぶるぶる震えず戸外でまた駆け回れる季節が来たことを喜べれば、それでいいんです。あとは、チョコレートの食べ過ぎに注意すれば・・・。

これは、余談となりますが、キャドバリーのイメージカラーは、上のポスターにも見られる通り紫色。このキャドバリーの使用しているシェイドの紫は、かなり慎重に守られていて、他の企業などが、同じシェイドと思われる紫を使おうものなら、訴えられてしまう可能性もあるのだそうです。製菓会社を打ち立て、ロゴに紫を使用しようなどと、考えている人は、キャドバリーに文句を言われないように気を付けましょう。

おまけの話:カンバーバニー

50ポンドはたいて買う?カンバーバニー・チョコレート

上記の通り、卵の他にも、ウサギを模したチョコレートがイースターでは多量に販売されますが、なんでも今年は、カンバーバニー(Cumberbunny)と命名された、ベネディクト・カンバーバッチの顔をしてウサギの体をしたチョコレートが販売されているのだそうです。400グラムで、なんと、お値段50ポンド。カンバーバッチ・ファンだと、思い切って買ってしまうのでしょうか。顔はなかなかリアルで似ています。

上の写真は、イブニングスタンダード紙の記事から拝借しました。

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