畑一面のエキウム・ブルガレ

畑を紫に染めるエキウム・ブルガレ(バイパーズ・ビューグロス)
春にイギリスの畑の脇を歩いたり、田舎道を車で通ったりすると、一面に広がる菜の花畑に遭遇する事が多々あります。これが終わると、今度は、菜の花ほど一般的ではないですが、時折、紫色に染まった畑を目撃することもあり。大体において、畑一面が紫色の花でおおわれている場合、その正体は、亜麻(学名:Linum ustiatissimum、英語一般名:Linseedまたは Flax)でした。亜麻は、繊維はリネンの素材として使用ができ、アマ二油と呼ばれる種から取れる油は、油絵などに使用されます。

先日、こうした畑の脇のフットパス(ハイキング用の道)を歩いており、いくつもの小麦畑を通過した後、少し先に、「湖か」と思うような水色の広がりが見え、近づいて行くと、一面の紫の花畑にご対面。

どうやら、亜麻とは、葉も花も違う感じで、また、時期的にも少し遅いし・・・と、家に戻ってから、取った花の写真をクローズアップして、その正体を調べてみました。まず、インターネットで、農家によって栽培される、青紫色の花をつける植物として調べても、大体が亜麻や、チコリなどが言及されているくらい。ちょっと違うぞ、と思いながら、インターネットを離れ、イギリスの野生植物図鑑で青、紫系の花を咲かせる植物のページをぺらぺらめくっている時に、「あ、これだ。」と目についたのが、エキウム・ブルガレ(Echium vulgare)。イギリスでは、一般に、Viper's Bugloss(バイパーズ・ビューグロス)と称される植物で、日本では、シベナガムラサキとも呼ばれるようです。

エキウム・ブルガレは、かつてはハーブの一種と見られており、葉を使用してのハーブティーは、頭痛や熱、痛みを和らげるのに使用され、一般名であるバイパーズ・ビューグロスの、バイパーとは毒蛇の事ですから、へびにかまれた時の対処にも使われたのでしょう。花はサラダに入れて食べることも可能とか。ついでに、ビューグロスというのは、ギリシャ語が語源で、「牡牛の舌」を意味し、葉のざらざらした感触と形を形容したもののようです。

さて、何故に、この植物を、農家が大量に育てているのだろうかと、こちらも調べてみました。現段階で、この植物の種から抽出するエキウム・オイル(Echium Oil)が、主に化粧品業界で使用されているようです。日焼け後のスキンケアやしわ取りクリームなどに入れると効果を発揮するのだとか。ここ数年で、注目されつつある植物のようなので、私も、今まで、菜の花や、亜麻のように、大量に育てているのを、見かけることも無かったのでしょう。色々試して、今までとは違う作物を育ててみようと思っている農家が、ニッチ市場である化粧品業界に向けて、このエキウム・ブルガレを、実験的に栽培しているのかもしれません。また、エキウム・オイルは、魚に代わる、オメガ3を含む栄養源としてヘルス・フード、サプリ業界からの興味も増しているとかで、そのうち、サプリ様に育てられるという事もあるかもしれません。

緑、茶色、黄色の畑の他に、時にこうした紫の畑の中を抜けて歩くのも気持ちが良いです。普通のハイキングに出たつもりが、思わぬ花園に迷い込んで得した気分。こういう場所とタイミングの良さには、一期一会という言葉がぴったり。また、こんなムラサキの中に立って、自分の知らない場所で、色々な植物の効用を調べる実験が行われている事実、試行錯誤で、今までとは別の作物を育てている農家の営みなどが垣間見られるのも、面白いものです。

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