テリーザ・メイ

御年90歳のエリザベス2世。ウィンストン・チャーチルに始まり、過去、幾人もの政治家が、首相に任命されるべく、バッキンガム宮殿を訪れ、その数も13人目。歩く歴史の様な人です、エリザベス女王は。

今回の任命は、イギリス2番目の女性の首相、テリーザ・メイ(Theresa May)。7月13日に、女王の13番目の首相として任命って、運悪いかも、などという人もいましたが。デイヴィッド・キャメロンがEU国民投票で敗北をしたことからの辞任表明、新しい保守党リーダーひいては首相の座をめぐって、EU離脱派の候補者たちが次々と消えて行った中、気が付くとあっという間に、首相の座にのし上がった彼女。

首相辞任のために、やはりバッキンガム宮殿を訪れたデイヴィッド・キャメロン一家が去るや否や、一時的にイギリスに首相がいなくなった数分後、入れ替わるように宮殿にやってきた彼女は、新首相に就任。その後、調度、6時のBBCニュースで生放送されるタイミングで、宮殿からそのまま、ダウニングストリート入りし、10番のドアの前での就任演説。政治の混とんの中にありながら、6年前に見たのと同じ、お定まりのパターン従った権力の交代に、妙なミスマッチ感があります。

テリーザ・メイは、牧師の娘で公立高校からオックスフォード大学へ進み地理学を専攻。御年59歳。(ちなみに、デイヴィッド・キャメロンは、この秋に50歳になるとやらで、まだ50にも達していないのです。若かったな、と今更、びっくり。)かなり若いころから、イギリス初の女性首相になるのが夢だったと言う話で、マーガレット・サッチャーが首相になってしまった際には、これで、一番のりができなくなり、むっとしたとか。

金融機関で働くご主人のフィリップ・メイとは大学時代に知り合い、なんでも、暗殺されたパキスタンのベーナズィール・ブットーの紹介であったとか。ダウニング・ストリート10番の前で手を振る夫婦の写真、本人より嬉しそうに、にたーっと笑う、昔風丸眼鏡をかけたご主人は、ちょっと愛嬌です。丸眼鏡をはずしたら、鼻も一緒についてはずれそう。そういう、おもちゃの眼鏡、小さいころ持ってましたっけ。

テリーザ・メイが、政治家として脚光を浴び始めた初めのころは、色々、とっかえひっかえ変わった靴を履くことで有名で、イギリス版、イメルダ・マルコスみたいなイメージが私の中にはありました。イギリス内務大臣の職を6年続け、サバイバルが大変だという内務大臣をこれだけの期間こなすのは、快挙ということ。

EU国民投票では、一応は残留派であったものの、キャンペーンに顔を出すことはほとんどなく、比較的沈黙を守り、実は、野党労働党党首ジェレミー・コービンの様に、隠れ離脱派という噂もあります。ですから、リーダーシップのコンテストの最中も、残留派ではあったけれど、Uターンはせず、「Brexit means Brexit.」(離脱となったからには離脱。)と、離脱計画を推し進める態度を示していました。それでも、実際に、今年中に、離脱の過程を始める申請をEU側に出すかどうかは微妙な感じです。EU残留の希望を捨てきれないうちのだんなは、テリーザ・メイが、いきなり気を変えて、「やめた。経済の自殺行為のブレグジットなんて、やってられないわ。」と言い出さないかな、などと藁にもすがるような発言をしていましたが、まず無いでしょう。

さて、新しいメイ内閣の主要大臣。まず、おとなりのダウニング・ストリート11番に入り財務大臣となるのは、キャメロン政権下で外務大臣であり、テレーザ・メイとも親しい、EU在留派であったフィリップ・ハモンド。

外務大臣ボリス・ジョンソン

  • 外務大臣のびっくり任命は、前ロンドン市長で、離脱派の拍子取りの役割を果たした、道化師ボリス・ジョンソン。ロンドン市長の時代から、海外を訪れては、ずっこけ言動で要人に失礼な事をしたり、新聞コラムに、他国の政治家をおちょくる記事を書き、時に怒らせたりもしており、この任命には、すでに海外からの驚きの声も上がっているようです。間違って、第3次世界大戦でも起こしかねない粗忽者が外務大臣ですから。まあ、首相になられるよりましですが。それでいて、そのコミック・タッチが受け、庶民人気は強く、今回の離脱派の勝利も、彼が先頭を切ってキャンペーンした事もかなり影響あるでしょう。それこそコメディアンであれば、へらへら笑って、おかしな奴だと言っていられるけれど、こういう、気分次第で、大衆を煽動する政治家、困りものです。
  • 今回特別に設置されたEU離脱大臣には、離脱派デイヴィッド・デイヴィス。
  • また、やはり、新しく作られたポジションである国際貿易大臣に、離脱派のリアム・フォックス。今までEUに御厄介になっていたので、国際貿易のネゴをできるエキスパートが、現在、この国、大変少ないのだそうです。

こうして、EUとの話し合いに多くかかわる3人が離脱派というのは、もし話し合いが上手くいかず、イギリスが、離脱の結果、良い条件(EU圏内の人の移動の自由を認めずに、それでいて、EUのシングル・マーケットにアクセスできるなど)が得られなかった場合、「ほら、離脱派のせいで、やっぱり酷いことになった!」と責任転嫁できる、という解釈もできます。

その他、テリーザ・メイ内閣の主なメンツに関する英語記事は、下まで。
http://www.bbc.co.uk/news/uk-politics-36785814

それにしても、本当に、EU離脱ボタンをテリーザ・メイが押す日は来るのか、いつ来るのか。どんな事態になるのか。ポンド安は続く上、この国への投資は皆、様子見。また、特に東欧人や、イスラム教徒に対する、人種差別的嫌がらせの事件も各地で増えているという話。泥沼状態になって来た野党労働党の勢力争いも、解決はずっと先の見込み。まだまだ、混とんの日々は続きそうです。再び、女性の首相登場だからと言って、それ自体が快挙だとは思えません。女性でも、男性でも、おかまでも、ポケモンでもいい。離脱の荒波を乗り越えながら、巧みに国のかじ取りをしてくれる首相でさえあれば。

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