大きな森の小さな家(Little House in the Big Woods)

ローラ・インガルス・ワイルダー(Laura Ingalls Wilder)というと、テレビドラマ化もされて人気だった「大草原の小さな家」(Little House on the Prairie)の著者として有名です。私は、本も読まず、テレビシリーズも見たことがなかったので、「大草原の小さな家」が、ローラ・インガルス・ワイルダーの半自伝シリーズ「インガルス一家の物語」シリーズの第2作目の題名だという事も知りませんでした。

昨今、アメリカの西部開拓の事などに興味が出てきたのもあり、先週、この「インガルス一家の物語」シリーズの第一作目、「大きな森の小さな家」(Little House in the Big Woods)を入手し読みました。出版は、1932年ですが、物語の背景は、19世紀後半のアメリカなので、出だしは、「Once upon a time, sixty years ago...(昔々、60年前に・・・)」で始まります。児童文学というより、19世紀のアメリカにおいて、自然の中での、自給自足サバイバル生活風景が、とても興味深かったのです。また、出版当時は、アメリカも大恐慌の只中とあって、苦労をしながらも明るく生活を送るフロンティア家族の奮闘記は、当時の読者の共感を買ったようです。

「大きな森の小さな家」は、アメリカは、ウィスコンシン州の北部、ミシシッピ川からほど遠からぬ集落、ぺピン近郊の森に住むインガルス一家の一年を追ったもの。お父さん、お母さん、5歳のローラと姉さんのメアリー、赤ん坊のキャリーが住むのは、森の中の丸太小屋。

冬に向けて、食べ物のたくわえをする季節から始まります。まず、お父さんが射止めた鹿を、燻製する様子。そして、年に一回、豚を殺すのもこの季節で、この豚の肉から、お母さんが、長期保存用に、豚の頭チーズなる代物、ソーセージなどを作る様子が描写され、また豚の膀胱を膨らませたものは、風船として、ローラとメアリーのおもちゃと化し、豚の尻尾を子供たちは火であぶって、しゃぶるのです。とてもワイルド!屋根裏部屋には、収穫したかぼちゃや玉ねぎが貯蔵され、子供たちは冬の間、かぼちゃを椅子や、テーブルにしたりして遊ぶ。

バターつくりの様子も描かれ、きれいな色が好きなお母さんは、にんじんの皮を利用して、バターに色付けをする。砂糖をキャラメル状に熱し溶かしたものを雪の上にたらして固まらせて作るキャンディーも、なかなか美味そうです。外には、熊や狼、豹も出るので、獲物を打ち落とす以外にも、護身のため、銃は大切。銃の玉も手製で、夜、お父さんが翌日のために、鉛を溶かして、型に入れて作るのです。雪深く、寒さが厳しい冬は、戸外での遊びがほとんどできない子供たちは、暖炉脇でのお父さんの話や、お父さんが弾いてくれるバイオリンの演奏が楽しみ。

冬が長いのか、話の半分以上は冬季のもので、ついに春がやってくる間じかの行事には、おじいさんの家に遊びに行き、メイプルシロップの収穫を手伝うというものがありました。ちょいとカナダのような感じです。まあ、カナダ近いですから。その後、おじいさん宅でダンスパーティーがあり、近郊の親戚一同が集まり、お父さんのバイオリンのメロディーで踊りを踊るのですが、この時に出るお菓子も、各人が、雪を載せたお皿に、大なべで煮詰めたメイプルシロップをたらりとたらして固めてキャンディーにしたもの。

夏の間に、ローラとメアリーははじめて、湖のほとりにあるぺピンの集落へ連れて行ってもらい、そこの雑貨店で買い物をするのですが、それまで、子供たちは、家が2件以上並んでいる様子を見たことがなかった、というので、大きな店にも、びっくり、立ち並ぶ家々にもびっくり。店に並ぶのは、シャベルなどの道具、塩、砂糖、布地、お菓子、などなど。お父さんは、撃ち落した獲物の毛皮を売りに、一人で幾度もこの店に訪れるという事で、顔なじみ。

当時、洋服や下着なども、こういう店で布地を買って、すべて手製であったわけですが、麦藁帽子なども、その名の通り、収穫後の麦のわらを使用して、お母さんが編んでいたのです。

こういった自然の中での素朴な生活、社会生活が複雑化した現代では、憧れる様な部分もありますが、紙面上で良くても、本当にやるとなると、大変だと思います。毎日、気分が悪くても肉体労働だし、お父さんに病気にでもなられたら、かなり困ったことになるでしょう。保険も社会保障もない。まあ、それを言えば、当時、裕福でない限り、どんな生活をしても、運が悪ければ、一寸先は闇だったでしょうが。手工芸も、今でこそ、趣味として、「麦わら帽子、手作りで編んでみるわ!」とか「柳で籠を作るぞ!」と、自分で物を作ることの喜びを得たりしますが、それが必要にせまられて、いつも、何でも、自分で作らなあかん・・・となると、楽しいものではなくなるかもしれません。また、力仕事や掃除などを、当時の、女性のあの長いドレスでやるのも、邪魔だったでしょう。そして、自給自足も、ある程度の土地が回りにないと成り立たない。人口密度が増えてくると、周りの人間との競争も出てきますから。狩に出たお父さんは、ある日、鹿と熊の行動を木の上から眺めていて、魅了され、撃つことが出来なかったというエピソードがありましたが、人口が多くなり、目の前に現れたものは、何でも撃たなければ、自分が飢え死に、などという状態になったら、自然への尊敬や共存感も薄れ、動物への愛情に流される余裕もなくなってくるでしょうし。

物語の最後は、再び、冬が始まる章で、ローラが、寝床から、暖炉際に座るお父さんとお母さんを眺めているところで終わります。お父さんは、バイオリンで「オールド・ラング・ザイン」を弾き、お母さんは、ロッキング・チェアで編み物をしている。まさに、暖かい家庭の象徴のような感じ。どんなに、外で恐ろしいことがあっても、この小さな家の中では、自分は安全・・・という幸福感。ローラは、「昔の日々を忘れてしまってもいいものか?」という「オールド・ラング・ザイン」の歌詞を聴きながら、お父さんとお母さんが暖炉の前に座っている姿を見て、「This is now.」(この光景は、今現在起こっている事だ)と実感し、今であるこの時間が、古い昔の事として、忘れられてしまう事は無い・・・と締めくくっています。彼女の「今」が、大昔の事となり、登場人物たちはすでにこの世にいない現在でも、こうして、未だに、この物語を読んで、暖炉のぬくもりを想像し、時代を超えた家族の暖かさに、ほんのりする読者も大勢いるわけですから。

ガース・ウィリアムズのオリジナルのイラストにも、温かみがあってとても良く、物語の一部の感じ。彼は、このイラストに着手するにあたり、ローラ・インガルス・ワイルダーと会い、その後、彼女が住んだ家のあった跡地を実際に見て回ったのだそうです。そして、仕上がりは、「物語内の過去の人物たちが、蘇ったようだ」と、作家本人のお墨付き。


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インガルス家のほかのメンバー、おじいさん、おばあさん、叔父さん夫婦なども周辺に住んでいて、クリスマスや収穫時期、忙しい時などは、お互いを訪ねあったり仕事を助け合ったりする様子も描かれているのですが、本を読んだ後、著者の実際の生活や背景を少し調べてみると、1862年に、インガルス一族、おじいさん、おばあさん、お父さん、お母さん、その他親戚一同、大挙して、このぺピンの周辺へ移住してきたのだそうです。こうして、親戚一同が大勢で、新しいフロンティアを求めて、西へ移住というのは、さほど目面しい事ではなかったそうです。

ちなみに、アメリカ南北戦争は、1861年から65年ですので、インガルス家のの移住は、南北戦争の只中。お父さんは、本来なら、北部の軍隊に参加して戦線へ送られる年なのですが、比較的辺境の地に移ったことで、免れたのかもしれません。それでも、ウェスコンシン州から参戦した男性のうち、12000人もが、南北戦争で命を落としたという事なので、行かずにすんで、ラッキーでしたね。行っていたら、ローラは生まれていなかった可能性もありますから。そういえば、ほぼ同時代が背景の、ルイーザ・メイ・オルコットの「若草物語」では、お父さんが南北戦争に行っていて、不在でした。「若草物語」も筆者の半自伝ですが、こちらは、出版は南北戦争後すぐの1868年。ローラが生まれたのは、南北戦争の2年後の1867年ですので、物語の始まりは、南北戦争が終了してからの話となっています。物語り内では、ローラの叔父さんの一人、ジョージは、14歳にして、自ら北軍に参加し、戦争に行き、無事に戻った事になっており、ビューグル(軍のラッパ)を吹くのが大好きという設定でした。実際のローラの年は、物語の中よりも、2,3歳若かったようなので、この時代の出来事のの多くは、彼女自身の記憶というより、両親から聞かされた話によるところが大きいのかもしれません。

ぺピン周辺の移住者の中には、穀物を大規模で育て、それを売って生計を立てる農民などもいたようですが、大半が、インガルス家のように、毛皮や、余剰生産物などを時々売る以外は、自給自足で生きていく・・・という形だったと言います。

もともと、インガルス家のご先祖は、イギリスから、ニューイングランドへ移住してきた、労働を重視しながらも、信心深い体質のピューリタンだったという事で、物語の中でも、日曜日は休息の日なので、仕事は一切無し。子供たちも、聖書を読むなどしてお行儀よくしているほかは、遊びはほとんど許されず、退屈したローラがふてくされてしまう、という「日曜日」という章がありました。本来だったら、日曜日は教会へ行くものの、丸太小屋のそばには、歩いて行ける教会がなかったので、おうちで、静かに・・・という事だったようです。

一家のぺピン在住中にも、西部への移民者の数は増えていき、ウィスコンシンの人口も増え、新たなるフロンティアも、どんどんと太平洋岸へむけて進んで行くのです。そして、「大きな森の小さな家」の続きの物語、「大草原の小さな家」で、イングルス一家も、更なる新天地と可能性を求めて、ぺピンを後にして、ワゴン車に乗り、カンザスへと赴くこととなるわけです。さて、西部開拓者たちの影響で、土地を終われる羽目となった原住のインディアンとの遭遇なども出てくるという「大草原の小さな家」では、一家の生活はどんな展開になるのか。続きの物語も買って、読み進むことにしました。

参考までに、ローラ・インガルス・ワイルダー著の「小さな家」シリーズとして知られるのは、全9冊で、以下の通り。括弧内は出版年。

Little House in the Big Woods 大きな森の小さな家(1932)
Farmer Boy 農場の少年(1933)この本のみ、ローラの夫君アルマンゾの子供時代の話
Little House on the Prairie 大草原の小さな家(1935)
On the Banks of Plum Creek プラム・クリークの土手で(1937)
By the Shores of Silver Lake シルバー・レイクの岸辺で(1939)
The Long Winter 長い冬(1940)
Little Town on the Prairie 大草原の小さな町(1941)
These Happy Golden Years この楽しき日々(1943)
The First Four Years 最初の4年間(1971)この本は、ローラの死後発行

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