薬の先駆者、ジギタリス

夏になると、ぐんぐんと、他の植物の間から顔を出して、長い茎に、鐘状の花をいくつも咲かせる植物は、日本名では、ジギタリス。英語では、俗に、Foxglove (フォックスグラブ)の名で親しまれています。直訳すると、フォックスグラブは、「キツネの手袋」となるわけで、日本人としては、新美南吉の童話「手袋を買いに」を思わせる微笑ましい名です。ただし、かつて、フォークスグラブ(folk's glove)と呼ばれていたものが、くずれて、フォックスグラブと呼ばれるに至ったという説もあるそうです。フォークとは、「一般の人々」を意味する言葉ですが、この場合は、妖精の事を指しているというので、「妖精の手袋」・・・それはそれで、ちょっといい名前です。また、グラブというのも、昔は鈴形をした楽器の名であった、という説もあるようで、妖精が、ちんからからと、ジギタリスの鈴を打ち鳴らしているのを想像すると、それもまたイケます。

学名のDigitalisは、ラテン語の「指」から来た言葉で、これもやはり花の形から。たしかに、指をすっと花に突っ込むと、ぴったりフィットですもの。

いまや、ガーデン用に色々な種類や色、模様のジギタリスが出回っていますが、イギリスの草原や藪、森林内の空地に咲く、原生のジギタリスは、Digitalis purpurea(日本語:ジギタリス・プルプレア)。背の高い茎に、紫を意味するpurpurea(プルプレア)の名の通り、紫の花が咲きます。時に白い花の、Digitalis purpurea albiflora と称されるものもあります。二年草です。

ジギタリスは、かなりの毒性があるにもかかわらず、古くから、民間療法で、薬草としても使用され、ジギタリスの葉のお茶は、風邪や熱、外用には、腫れや打撲のあざなどに当てて使用されたとか。心臓関係の病気、特に、dropsy(うっ血性心不全)に良く効くとされていたものです。

18世紀後半、植物学者でもあった、イギリスのウィリアム・ウィザリング(William Withering)医師は、シュロップシャー州で、薬草やハーブを用いて、病人の治療を行っていた女性から、うっ血性心不全には、ジギタリスが良いと言う話を聞き、ジギタリスの薬物的効果の研究を開始。こういう薬草での治療を行った女性たちは、往々にして、ウィッチ(魔女)と呼ばれていたのですが、かつては、植物を使用しての民間療法が、医術や科学という学問的なものではなく、一部、黒魔術風に一般庶民に見られていたのかもしれません。

ウィザリング医師は、研究の結果、ジギタリスの葉は、心臓の鼓動を緩やかに定期的にする効果があるとつきとめ、1785年に、その結果を「Practical Remarks on Dropsy, and Other diseases」(うっ血性心不全とその他の病気に関する実践的記録)にて、出版。これは、英語で書かれた、初めての、薬物治療の出版物であるとされています。ウィザリング医師の出版をきっかけに、それまで、ウィッチや、坊さんたちが処方していた民間療法とは別に、植物の薬物効果が科学的に研究されるようになるのです。やがて、ジギタリスから、ジギトキシンそしてジゴキシンの抽出が行われ、心臓病の薬として使用されるようにもなり。ですから、ジギタリス・プルプレアは、薬物の歴史の中では輝ける先駆者。

前述したとおり、強い毒性を持つ植物なので、薬の抽出は化学者にまかせ、くれぐれも心臓にいいかも、などと葉っぱをバリバリ食べたりしないように!

これは、うちの庭のジギタリス。花の中にある斑点は、「毒があるよ」と注意をうながすために、妖精たちが指でつけたマークだ、などという話もあります。

白いものも。これは、結構、背が高くなりました。

蜂は、花の中にもぞもぞと潜り込んで蜜を吸います。

ハナグモが、ジギタリスに惹かれてやってくる蜂たちに目をつけたようで、花の間に隠れていました。上の写真、上部中央にハナグモが隠れているのが見えるでしょうか。餌食となってしまった蜂が一匹、糸で上からつるされてしまっています。あーあ・・・・。

イギリスの外の自然と個人の庭とのリンクを作ってくれるようなジギタリス、少しずつ、うちの庭でも数を増やしていきたいところです。

参考サイト:キューガーデンのジギタリスのページ(英語)

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