コッツウォルズ小旅行

イングランド中央部の丘陵地域であるコッツウォルズ。前回の記事に記したよう、ジュラ紀に堆積された石灰岩、コッツウォルズ・ストーンで造られたコテージが有名です。コッツウォルズの広がる主なカウンティー(州、県にあたるもの)は、グロスターシャー、そしてオックスフォードシャー。その他、北はウスターシャー、ウォリックシャー、南はサマセット、ウィルトシャーの一部にも少々またがっています。

ドゥームズデイ・ブックの記録によると、コッツウォルズでは、ノルマン時代からすでに、現存する村々は存在し、羊放牧が行われていたそうです。ノルマン人が導入した石切、石大工の技術をもって、地元の石を切り出し、マーケット・タウンが形作られ。15世紀までには、ほぼ羊毛一筋によって栄える地域となります。羊毛の富がもたらした資金で教会が建てられ、富裕商人の家が建てられ。16世紀には、羊毛織物産業の重要性が増し、特に流れの速い川の多い西部コッツウォルズに、水車の力を使用した毛織物工場が集中します。

1700年から1840年にかけ、他の地域での羊毛生産、加工の増加に伴い、羊毛産業のみに頼っていた、地元経済は打撃を受け、衰退の一途を辿る事となります。やはり、一時は羊毛で栄えたものの、産業革命に立ち遅れ、時代に取り残されていったおかげで、古い町並みが破壊されずに保存されたノリッチなどと同様、コッツウォルズも、産業革命中、これといった産業が無いまま廃れていたため、新しい建物が立つ事も無く、黄金期の美しい町並みとコテージが、タイムスリップをしたように、そのままの形で残る事となるのです。

ヴィクトリア朝に、ウィリアム・モリスを初めとする著名人たちが、この地域の美しさに気付き始め、古い建物を守るため尽力し、徐々に、観光客も、その魅力を楽しむために足を運ぶようになります。いまや、押しも押されぬ、世界に知れたイングランドの観光地です。おかげで、ロンドンのシティーで財を成した人たちが、セカンドハウスを購入したり、映画スターまでが、コッツウォルズにコテージを購入などというご時勢。それは、それで、地元で、低賃金の仕事に従事する若者達が、コッツウォルズ内部で家を買えない・・・という困った状態も引き起こしています。

母親がイギリスに遊びに来ていたため、だんなが、せっかくだからコッツウォルズとストラトフォード・アポン・エイヴォンにでも連れて行こうという事になり、1泊2日の小旅行をして来ました。コッツウォルズ内で、何個も村や町を巡ろうと思うと、電車では行きにくいため、ドライブ旅行。大昔に、やはり車で、日帰りで何ヶ所か通り抜けて以来です。車を降りて観光した場所は、7箇所、訪れた順にまとめてみました。

バーフォード(Burford)
オックスフォードシャー州のバーフォード。近郊は、現首相デイヴィッド・キャメロンの選挙区であるため、途中、いくつか道端に、デイヴィッド・キャメロンの名が載ったプラカードが立てられているのを目にしました。来週の木曜日(5月7日)は、イギリスの総選挙ですから。バーフォードは、コッツウォルズ内では、ロンドンに近い部分であるため、高級車が多く目に留まり、運転も荒い感じがしました。

目抜き通りは、背景に丘が眺められ、綺麗なのですが、交通量が多い通りで、なんとなく、のんびりできない感じです。

だんなが子供の時に、何回か通過して、軽食を食べた記憶があるという同じベーカリー兼カフェで、遅い昼ご飯をしました。御馴染み石造りの建物のみでなく、近くの森からの木材を使用しているというハーフティンバーの建物もあります。

バイブリー(Bibury)
バーフォードから更に西へ進み、コーン川(River Coln)のほとりの村、グロスターシャーのバイブリーへ。

バイブリーは、今回訪ねた中、一番好きな場所です。バイブリーで車を降りて、「ああ、コッツウォルズにやって来た!」と思いましたもの。ウィリアム・モリスも、バイブリーを「イングランドで最も美しい村」と呼んだそうで、心洗われる美しさ。周辺の自然もいいのです。ですから、帰ってきて写真の整理をしてみると、ここのものが一番多かった。店なども数えるばかりの、本当に小さな集落なのに。

上の写真の一連のコテージは、コッツウォルズ特集などの雑誌や、カレンダー、絵葉書にも、それは良く使用されるアーリントン・ロー(Arlington Row)。以前買った雑誌に、「クリスマスをコッツウォルズで楽しもう」のような記事が載っていたのですが、その時の雑誌の表紙も、このアーリントン・ローの冬景色でした。

アーリントン・ローを逆方向から見るとこんな感じ。中世の建物を、17世紀に織物職工の住むコテージに作り変えたもの。ここで織られた布は、水処理をされ、今は自然保護地区である、コテージの前の草地に広げて干されていたそうです。

アーリントン・ローの前の流れでは、キセキレイ(Grey Wagtail、グレイ・ワグテイル)が、美味しい昆虫を探して、ちょこちょこと歩いていました。

また、マスが釣れる澄んだなコーン川では、水に写る自分の姿に見とれながら、黒鳥が泳いでいましたし。

マスの料理を出す店が、川のそばにありますが、私の昔の日本人の上司も、バイブリーが大好きで、ロンドン駐在中、毎夏のように、マイ箸とマイ・キッコーマン持参で、この場所へ、マスを食べに来ていました。私達は、マスは食べずに、アイスクリームに舌鼓し、景色を楽しみながらそぞろ歩きました。

ボートン・オン・ザ・ウォーター(Bourton-on-the-water)
バイブリーから、北東へ移動して、ウィンドラッシュ川(River Windrush)の流れるボートン・オン・ザ・ウォーターへ。この場所も良かったです。基本的に、綺麗な小川が流れる場所というのは、好きですし。

このボートン・オン・ザ・ウォーターは、川にいくつもの小さな橋がかかっている事で有名で、人呼んで「コッツウォルズのヴェニス」。「xx銀座」とおんなじで、「xxヴェニス」と呼ばれる場所も、沢山あります。雰囲気は、ヴェニスよりずっと、田舎。

母は、私達が散歩をしている間、疲れたからと川沿いのベンチに腰掛けて待っていましたが、途中で隣に座ったイギリス人のおじいさんに話しかけられ、「ノー・イングリッシュ。オンリー・ジャパニーズ!」と言ったそうなのですが、「オー!アイ・ラブ・ジャパン!」とおじいさんは、とうとうと喋り続けたらしく、やたら「ラブ」という言葉を連発していたそうです。ナンパされたんじゃないの、と大笑いになりました。

ストウ・オン・ザ・ウォルド(Stow-on-the-Wold)
更に北上し、やって来たのは、コッツウォルズの町の中で、一番標高の高いストウ・オン・ザ・ウォルド。着いた時には、もう夕刻だったので、ここで「空きあり」の札が下がっていたB&Bを見つけ、宿泊しました。

長年、人との触れ合いが好きだからやってきた感じの、フレンドリーな夫婦経営のB&Bで、なかなか快適でした。母親の泊まった部屋は、浪漫チックな花柄のカーテンやベッドカバーで、彼女もご満悦のようでしたし。宿の外壁を覆う植物は、なんでもアジサイの一種なのだそうです。

全4部屋の小さなB&Bで、私達以外の客は、バーミンガムに住み、年に1回は必ず訪れ、経営者はもう友達のようというリピーターの壮年夫婦と、バスを乗り継いでのマイペース一人旅をするアメリカ人女性だけ。

翌日、朝食前に、町をささっと歩いてみました。8つの道が合流する場所という事で、昔から市で栄え、町の中央には、コッツウォルズでは異例の大きさの広場があります。今は駐車場となっていますが、まだ車や観光客が到着していない時間で、がらんとしていました。羊産業が廃れた後は、馬が牧畜されるようになり、現在も年に2回馬の市が開かれるのだそうです。現在はアンティークをはじめとする可愛らしい店も多いようで、ロンドンからの日本人観光客用バスツアーなどにも目的地のひとつに組み込まれている場所です。

ブロードウェイ(Broadway)

朝食後、B&Bのチェックアウトを済ませ、再び、北上。ブロードウェイへ。広々とした目抜き通りを見ただけで、名の由来がわかります。全体的に開放感がある場所でした。

コッツウォルズの丘歩きを楽しめる、コッツウォルズ・ウェイへのアクセスが便利なため、ウォーキング・スティックを手にしたハイキング目的風の人たちが多かったです。

チッピング・カムデン(Chipping Campden)
ブロードウェイから、北東へ少々移動したところにあるチッピング・カムデン。チッビングというのは、マーケット(市)の事。市はすでに12世紀から開かれていたそうですが、目抜き通りに建つマーケット・ホールは、17世紀はじめのもの(上の写真)。

マーケット・ホールのわきには、「バースまで100マイル」と刻まれた石が置かれており、ブロードウェイも通っている、丘歩きのためのコッツウォルズ・ウェイは、ここで終わっている(始まっている?)ので、石には更に「コッツウォルズ・ウェイの始まりと終わり」と記載されています。

黄金色と称される、北部コッツウォルズ・ストーンの町並み。右手の建物はマーケット・ホールを反対側から見たものです。

ここから、私達は、コッツウォルズに一度さよならし、更に北上し、ストラトフォードへとむかいました。ストラトフォードに関しては、改めて別の記事に書く事にします。

チッピング・ノートン(Chipping Norton)

ストラトフォード観光を終え、再び南下。オックスフォードシャー北部のチッピング・ノートンでちょっと一休み。オックスフォードシャー内で標高が一番高い町。

ここもバーフォードと同じく、運転の荒い高級車ひしめく、交通量の多い場所でした。とろとろ運転派のだんなは、「こいつら皆、金持ちロンドナーじゃないか。だから、アグレッシブな、身勝手運転するんじゃ!」と、ぶつぶつ。一般的に、まだロンドンの影響が強いオックスフォードシャー内のコッツウォルズは、少々せわしなさがあるのかもしれません。ですから、ささっと降りて、ささっと見て回って、おトイレをして、おしまい。この地を最後に、帰途に着きました。

今回は、ストラトフォードへ行く目的もあったため、訪れたのは、そのための経由に便利なコッツウォルズ東部が主でした。この中で、私が、もう一度行ってもいいと思うのは、バイブリー、ボートン・オン・ザ・ウォーターとブロードウェイですね。のんびりと田舎らしい雰囲気を味わいたい人にはお勧めです。丘歩きに出るとしたら、ブロードウェイ辺りに宿を取ってみるのもいいかなと思います。

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