テディーベアのピクニック

こちらの子供たちは、クマのぬいぐるみ、テディーベア(Teddy Bear)が好きですね。小さな子供が、自分と同じくらいの体のテディー(Teddy)を、がしっと抱えてよたよた歩く姿などは見ていてとても可愛いのです。いや、子供だけでなく、おばさんの私も、昔、誕生日プレゼントにもらったテディーベアを、テディーベア専用椅子に座らせて飾っているし、テディーベアの模様のお出かけバッグまで持っている始末。ミスター・ビーンも、よれよれのテディーベアを大切にしてましたっけ。

さて、このテディー・ベアという英語の名称ですが、ベアの部分はともかく、テディーとはなんぞや・・・という由来と、そう呼ばれるようになった歴史をちょっと見てみましょう。これは、アメリカ第26代大統領、セオドア・ルーズベルト(Theodore Roosevelt)から来ています。彼の愛称は、テディー・ルーズベルト。

1902年に、ルーズベルトは、ミシシッピ州知事の誘いで、ミシシッピへくま狩りに出かけます。狩猟を始めて3日たっても、ルーズベルトはクマを一匹も打ち落とせないでいたのを、猟のガイドが見かねたか、犬を使って追い詰めたクマを、柳の木に縛りつけ、大統領を呼んで、撃つように勧めたのです。ところが、セオドア・ルーズベルトは、動けないでいるクマを撃つなど、スポーツマンのする事ではない、と、自分で撃つ事を拒否。ただし、クマはすでにかなり傷ついて苦しんでおり、楽にしてやるために、他の者に撃ち殺す事を命じます。

この逸話が、新聞記事となり、ニュースはあっという間に国中に広がります。更には、政治漫画家のクリフォード・ベリーマン(Clifford Berryman)が、木に繋がれているクマとガイドに背を向ける大統領の漫画を描き、ワシントン・ポストに掲載。上がその漫画。クマは、なんだか、ミッキーマウスに見えなくも無いですが。ともあれ、このため、クマさんというと、ルーズベルト大統領のイメージが、多くの人々の心に焼きつく事に。

ニューヨークで、キャンディーショップを経営していた、モリス・ミットム(Morris  Michtom)氏も、この漫画を目に留めたひとり。彼は、店の窓に、奥さんが作った2つのクマのぬいぐるみを飾り、ルーズベルトから、このクマさんたちを、セオドアの愛称「テディー」を使用した、Teddy's Bears(テディーのくま)と呼んでも良いでしょうか、と許可を得ます。人気となったテディーたちに触発され、やがて、ミットム氏は、テディーズ・ベアを大量生産し始め、おもちゃ会社を築き上げるに至ります。

時期を大体おなじくして、ドイツの会社シュタイフ(Steiff)が、やはりぬいぐるみのクマを製造販売はじめます。この会社、もともとは、マルガレーテ・シュタイフ(Margaret Steiff)婦人が、おこづかい稼ぎに、ゾウのぬいぐるみを自分で作っていて、そのうちに他の動物のぬいぐるみを作るようになったのが始まりだそうです。当社のクマのぬいぐるみは、アメリカで人気となり、多く輸入され、これらクマさんたちも、テディー・ベアの名で呼ばれるように。そして今では、クマのぬいぐるみ・・・と言えば、どこのどんなものでも、テディーの名で呼ばれるようになるまで浸透したわけです。

(上記物語を書くにあたっては、セオドア・ルーズベルト協会(Theodre Roosevelt Association)のサイトを参考にしました。)

A.A.ミルンの「くまのプーさん」も、クリストファー・ロビンのテディー・ベアが主人公の物語でした。この物語は、クリストファー・ロビンが、くまのぬいぐるみを引きずって階段から降りてくるところで始まります。その最初の一文は、

Here is Edward Bear, coming downstairs now, bump, bump, bump, on the back of his head, behind Christpher Robin.
エドワード・ベアが、ぼこん、ぼこん、ぼこんと、階段から降りてきました。クリストファー・ロビンの後ろから、ひきずられて、頭の後ろを打ちながら。

エドワードという名の愛称も、テッドや、テディー。だからここでは、テディーベアという代わりにエドワードベアと呼んでいるようです。この後、すぐ、クリストファー・ロビンは、このクマは、ウィニー・ザ・プーだと、語り手に紹介するのです。ウィニーというのは、女の子の名なので、「このクマは男の子だと思った」という語り手に、クリストファー・ロビンは、「彼の名前は、ウィニーじゃなくて、ウィニー・ザ・プーなの。」だから、男の子でもいいんだ、と、よくわからない説明。そして、このぬいぐるみを主人公にした物語を聞かせてくれるよう、語り手に頼み、プーさん物語が始まるわけです。

さて、テディーベアをめぐって、話を児童文学から音楽へ移しましょう。

テディーベアが流行り始めてすぐの、1907年に、アメリカで「The Teddy Bear's Picnic テディーベアのピクニック」という曲が書かれます。クマがよたよた歩いている姿を想像できる、ゆかいな感じの曲です。これに歌詞が書かれるのは、1932年。同年に、イギリスで、Henry Hall and His Orchestra (ヘンリー・ホールとオーケストラ)によって、初めて歌詞つきの歌が録音されます。ユーチューブに、この1932年の「テディーベアのピクニック」がありましたので、聞きたい方はこちらまで。歌手の、昔っぽいイギリス英語のアクセントも、とても面白い。昨今、こんな喋り方をする人あまりいませんし。なんでも、この録音は、1960年代まで、BBCの音響技師により、音響設備の周波をテストするために使用されていたのだそうです。

歌詞は、

If you go down in the woods today
You're sure of a big surprise.
If you go down in the woods today
You'd better go in disguise.

For every bear that ever there was
Will gather there for certain, because
Today's the day the teddy bears have their picnic.

Every teddy bear, who's been good
Is sure of a treat today
There's lots of wonderful things to eat
And wonderful games to play

Beneath the trees, where nobody sees
They'll hide and seek as long as they please
That's the way the teddy bears have their picnic

Picnic time for teddy bears,
The little teddy bears are having a lovely time today.
Watch them, catch them unawares,
And see them picnic on their holiday.
See them gaily get about.
They love to play and shout.
And never have any cares.
At six o'clock their mommies and daddies
Will take them home to bed
Because they're tired little teddy bears.

If you go down in the woods today,
You'd better not go alone.
It's lovely down in the woods today,
But safer to stay at home.

For every bear that ever there was
Will gather there for certain, because
Today's the day the teddy bears have their picnic

最初の2節だけ、ちょっと訳してみました。

今日、森へ行くのなら
びっくりする事が待っているよ
今日、森へ行くのなら
変装して行った方がいいよ

ありとあらゆるクマたちが、
森に集まってくるんだ
今日は、テディーベアのピクニックだから

良い子にしていたテディーベアたちに
今日は、楽しい事が待っている
すばらしいご馳走が沢山と
楽しいゲーム

誰にも覗かれない木の下で
好きなだけかくれんぼ
それが、テディーベアのピクニック

今では、色々な歌手がカバーしてる歌ですが、うちのだんなも含め、ちょっと古い世代には、「テディーベアのピクニック」と言うと、ヘンリー・ホールのバージョン。私の記憶が正しければ、マーガレット・サッチャー時代の政治家で、一時は首相候補でもあったマイケル・へゼルタイン氏が、デザート・アイランド・ディスクスという著名人が自分の好きな曲を選んで流すラジオ番組に出演した時に、選んだ曲のひとつだったような気がします。もちろんヘンリー・ホールの演奏で。

どんな人でも、大人になってからも、子供の時代に愛したテディーは懐かしいものなのでしょう。

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