ロンドンのミトラス教神殿遺跡
ロンドン博物館内のミトラス神の頭 |
このウォルブルックの西側は、かなり長い間、新しいブルームバーグ社ヨーロッパ本拠地の建物建設のため、一大工事現場と化し、封鎖されていました。かつてここにあった、バックラーズベリー・ハウス(Bucklersbury House)と呼ばれた、味気ない、おんぼろビルが取り壊された後、ノーマン・フォスター氏デザインによる、新しいブルームバーグ社建物建設前に、考古学団体による発掘が行われ、ローマ時代の遺品がいくつも発見されるに至り、一時は、「北のポンペイ」などと呼ばれ。この地は、ウォルブルック川のそばの比較的湿った地質であったため、木材や皮製品の保存状態が特に良いのだそうです。
もっとも、この地が考古学者達の一大興味の対象となったのは、今回のみならず。戦時中に、ここにあった建物がドイツ空軍の爆撃で崩壊し、戦後の土地開発で、1954年、この場所にローマ時代の紀元240年に遡る、ミトラス教の神殿(Temple of Mithras)遺跡が掘り上げられ、大騒ぎとなったのです。英語の発音は、「ミトラス」より、「ミスラス」に近いものがあります。
1950年代のミトラス神殿の発掘 |
ロンドン博物館内、ウォルブルックで発掘された彫刻類 |
ついでながら、このバックラーズベリー・ハウス内には、以前、英国郭という日本のレストランが一階に入っており、その隣には、同レストラン経営のお弁当屋さんもあったため、私は、お昼ご飯を買いに時折足を運んだ場所です。うちのだんなも、日系企業との会合の際に、このレストランでご馳走になる事が何度かあり、いつもそれを楽しみにしていましたっけ。まあ、そういった意味で、見栄えはぱっとしないビルでしたが、愛着は残っています。ミトラス神殿は、周辺に道しるべはあったものの、当時は特に注意も払わず、実際、そんな駐車場の上にひそかに存在していた事さえ知りませんでしたし、見に行ったという人の話も聞いた覚えがありません。
新しいブルームバーグ社の建物の一角 |
当然こうした新しいビルの建設などは、長期計画ですので、ブルームバーグ社がこれを建てるのを決めたのは、ブレグジット(イギリスのEU離脱)の話などはまだ一切なかった頃。ブルームバーグのCEOで、もとニューヨーク市長であったマイケル・ブルームバーグ氏が、ロンドンを訪問した際、インタヴューされているのを聞きましたが、ブレグジットに関して聞かれると、氏は、「ブレグジットは、かつて、この国が決めた過去一番ばかげた事。」とのたまっていました。シティー関連者の大半の意見でしょうが。
ブルームバーグ社内の新しい場所へ移動のための神殿解体作業 |
こうして、ぴかぴかのブルームバーグ社の建物も完了し、ミトラス神殿も、今年の11月から一般公開が始まりました。チケットは時間制で、今のところ前予約が必要ですが、入場無料です。さっそく行ってきました。
牡牛を殺すミトラス神 |
ミトラス神殿は、地下の洞窟風の場所に作られ、内部は薄暗く、大きなテーブルと2つの長いベンチがしつらえられ、メンバーが共に、その場で食事をしたとされています。
各地で発掘されたミトラス神の彫刻は、必ずと言っていいほど、ペルシャ風衣装を着て、ナイフで牡牛を殺す様子を模したもの。カラス、サソリ、犬、蛇が、その周りを取り囲み、犬と蛇は、牡牛から流れ出る血を舐めとり、さそりは、なぜか、牡牛のたまたまを攻撃。死から生命が湧き出る・・・といったような意味で解釈される事が多いようです。そして、それらをくるりと取り囲むように十二宮のイメージ。
インド・イラン由来の名前が似たミトラ教から派生したとか、ミトラス神がペルシャ風衣装を身に着けているところから、ゾロアスター教から派生したとか、色々説があるようですが、定かな証拠は無し。ローマ帝国は広く、色々な人種を含んでいましたらから、あちらこちらから、色々いただいて出来上がった宗教なのでしょう。所詮、キリスト教も、色々な異教の要素を取り入れているところがありますし。最後の晩餐よろしく、食事を共にする習慣と、一説によれば、12月25日は、ミトラス神が生まれたとされる日でもあるとかで、ミトラス教とキリスト教の関わりを唱える人がいるようですが、こちらも、その根拠は皆無ということ。
5世紀までに、無くなったというのは、どうやら、キリスト教信者たちにより神殿などが破壊されていったのが原因のようです。ミトラス教に限らず、それまで帝国内に存在した多々の宗教が、公認されたキリスト教によって目の敵にされ消えていった、というのも皮肉なものです。かなり前に、「コンスタンティヌス帝とキリスト教」という記事で書きましたが、以前は糾弾されていた団体が、権力を持つことによって、今度は、自分が他者を糾弾し滅ぼしていき、以後、西洋諸国は、それまでの、なんでもござれ、からキリスト教一色に塗られていくわけです。
さて、この公開され始めたばかりのミトラス神殿。入り口付近のショーケースの中には、神殿に関わらない、他のローマ時代の発掘物も展示されています。(このうち、ブルームバーグ・タブレットに関しては、また次回書くことにします。)
実際の神殿は、階段を降りて、地下の暗がりにあり、照明や音響効果を利かせ、なかなかムードあります。
ロンドンという場所は、過去の瓦礫の上にたっている町であるため、ローマ時代の地表は、現代の地表よりずっと下にあるのです。階段を降りながら、壁を眺めると、この高さの地表は、17世紀の時、12世紀の時と、印が付いており、階段を降りるに従い、昔の地表に近づき、ついにはローマ時代の地表に到着。7メートルくらいの深さでしょうか。ですから、ローマ時代の遺跡を掘り当てるには、かなり深く掘る必要が出てくるのです。
内部は、ミトラス教に関する説明は、あまりないので、事前にミトラス神殿がどのようなものであったかを知ってから入らないと、何が何だか、わからない、という可能性もあります。(このブログを読んだ人は大丈夫です!)が、めんどくさい事はともかく、かつてのローマ人が経験した、神秘的な世界に踏み込めればそれでいいと思えば、それは、それで、楽しめるのでしょう。
上記の通り入場は無料で、下のLondon Mithraeumの公式サイトから時間制のチケット予約ができるようになっています。
https://www.londonmithraeum.com/
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