ロイヤル・ウェディングには燕尾服?

今月、こんなニュースがありました。「首相は、ロイヤル・ウェディングには、燕尾服(Morning Suit)を着るのでしょうか?」とのジャーナリストへの質問に対して、英首相デイヴィッド・キャメロンのスポークスマンは、「いいえ、首相は、ラウンジ・スーツ(Lounge Suit)を着るでしょう。」と返答。その後、キャメロン本人から、「燕尾服を着ます。」と訂正発言が入りました。どうでもいい様なこんな事が、こちらでは結構な話題となってしまったのです。何故かというと・・・

デイヴィッド・キャメロンは上流階級の出身。王子達も通い、いまだに生徒が燕尾服を着用するイートン校出身。後、オックスフォード大へ。以前の記事「パブリック・スクール・ボーイズ」にも書いた様に、オックスフォード大学時代は、紹介のみによりメンバーとなれる、悪名高いダイニング・クラブのBullingdon Club(ブリンドン・クラブ)に所属し、他のクラブ・メンバーと共に、燕尾服姿で傲慢そうにポーズを取る写真が一時出回ったため、「キャメロンはトフ(toff、上流階級の人間をいささかけなして指す言葉)」のイメージが一般民の心に焼きついています。以後、彼は、「自分は、国民の皆様と同じような、普通の人で、トフではありません。あなた達の気持ちを理解する、心ある保守党政治家なんですよ。」とアピールするためか、公式行事などでも、比較的リラックスした雰囲気の、ドレスダウンした服装で現れ、狩猟をやめ、サイクリングを始めたり、ロンドンのジェントルマンズ・クラブのメンバーシップを諦めたり、とあの手この手で、「一般受けする普通の人」イメージつくりに余念がなかった。

そんな背景もあって、首相スポークスマンは、「燕尾服を着るか?」の質問に対し、「イエスと言うと、また、メディアが、やっぱりキャメロンはトフ、と書きたてるかも」と懸念して、「いいえ、スーツを着ます」と答えたのでは、と憶測されています。ところが、今回は、国の一大イベント、世界も注目するロイヤル・ウェディングですから、他の政治家達もほとんどが燕尾服を着ることが予想される中、首相の彼が、普通のスーツ姿で登場しては、この結婚式を軽んじているように見られてしまう。これはまずいと、取り消し発言になった次第。

面白かったのは、この事に関するガーディアン紙の記事。(上の写真も同新聞サイトより拝借。)この記事は、キャメロンと同じように、イートン、オックスフォード、そしてブリンドン・クラブのメンバーでもあったロンドン市長のボリス・ジョンソンの一般人受けの良さと人気に着目していました。ボリス・ジョンソンは自然体で、自分のバックグラウンドを、世間の目から隠すわけでもないのに対し、キャメロンは必死で、政治的目的のため、本性とは違う自分をアピールしようとしているのが、トフであるなしに関わらず、不信感を買う原因ではないかと。ジョンソン氏は、初めから、「ロイヤル・ウェディングだから、それにふさわしい燕尾服を着ます。」と宣言していたそうです。まあ、彼は、性格的にも、頭に浮かんだ事は何でもすぐ口にしてしまう、失言の多い、大雑把で飄々とした、半分コメディアンの様な人なので、そんなところも、人気に一役買っているのでしょうが。彼が、何かへまをしても、「ああ、ボリスならしかたない。」と笑って許してもらえる、いわゆる、得な性格の人。

という事で、上がキャメロン、ジョンソンがメンバーだった1987年のオックスフォード大ブリンドン・クラブの写真。(デイリーメイル紙のサイトより拝借。)このへっぽこロックバンド風ユニフォームをしつらえるのに、当時で1200ポンドかかり、お食事は高級レストランにて、シャンペンと高級ワインをがぼがぼ。その上、嘘か本当か、高級レストランで乱痴気騒ぎをして、家具や窓ガラス等を破壊、後にその賠償金も払う必要があったなどという噂もあるので、とても、普通の家庭の子女では、金銭的にメンバーになることは無理。そういう意味で非常に排他的なクラブです。さて、上の写真内で、デイヴィッド・キャメロンとボリス・ジョンソンを探せますか?キャメロンは、上列左から2人目。ジョンソンは、下列に座っている右端。

さて、この燕尾服は、昔、土地持ちの貴族が着ていて、乗馬に便利なように後ろに切り目を入れたため、ああいう、尻尾のような形になった次第。英語名モーニング・スーツの、モーニングは、朝の乗馬に着るもの、要は朝に着るものだった事に由来するようです。ちゃんと帽子までかぶった燕尾服でのいでたちは、ハット・アンド・テイルズ(hat and tails)とも呼ばれます。今では、乗馬とは関係ないような国ででも、公式行事で着用されたりするのは、考えてみれば変な話です。スーツ(ラウンジ・スーツ)は、上流階級の燕尾服に対し、中流の洋服として発達し、アメリカの実業家達の地位の向上、更に、第1次大戦後、階級制度が崩壊を見せ始めるにしたがって、着用する人の数が増えていったそうです。

昨今でも、結婚式においては、新郎新婦の男性親族、特に、新郎、新郎新婦の父、ベストマン等が燕尾服を着用する事は、わりと一般的なようです。ロイヤル・ウェディングをテレビで見るときは、男性招待客の誰が、燕尾服を着用しているか、テイルズ・ウォッチングしてみるのもいいでしょう。

場所や行事にあった洋服を選ぶというのも、なかなか大変なものです。ただ、ネルソン・マンデラあたりが今回の結婚式に参列する事になっていたら、トレードマークの派手なシャツを着て現れても、文句を言う人はいないでしょうね。あれだけ、尊敬を受ける偉人となると、なんでもありです。また、「中東の人達なども、燕尾服の心配はなく、いつものいでたちで登場できるので、ラクだね・・・」と、うちのだんなに言ったところ、「いや、中東は中東で、西洋の人間にはわからない、微妙なドレス・コードがあるかもよ。」そうですね、「うちの国の王太子の着用していた、あの頭のタオルの柄は、結婚式にふさわしくなかった、もっと小さいまだら模様にすれば良かったのに・・・」などという非難も、見る人が見れば、あったりして。

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さて、しばらく続いた好天気が下り坂になっていく様子で、気温も少し下がりました。結婚式の金曜日は雨の噂も流れ始めています。まあ、よくある話です。

ウィリアムとケイトが結婚式後に、ウェストミンスター寺院から出発しバッキンガム宮殿に至るまでの通路の、観光ガイド風ビデオを見つけました。興味のある方はこちらまで。ちょっとしたお茶の間ロンドン観光ができます。すでに、ウェストミンスター寺院の外で、良い場所を取ろうと陣取る人たちが現れている模様です・・・お疲れ様。少なくとも、この人たちは、何を着るかで、やきもきする必要は無いですが。

コメント

  1. こんにちは、今日は腰痛で休暇を取りました。
    結婚式は楽しみですね。燕尾服は式典の校長先生を思い出します。なんだかペンギンみたいで、防虫剤の臭いも面白いです。モーニングと言うのはどうしてなんでしょうか?なかなか似合う人はいませんよね。
    それとケイトさんの本名はキャサリンというのですか?
    これも解りづらいですね。そして、ちょっと彼女、痩せ過ぎのような気もして心配です。
    私はゆったり腰をさすりながらテレビをみるつもりであう。

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  2. モーニングの件は、上記の記事に書き足しました。
    ケイト・ミドルトンの名については、新しくポストしましたので、ご参考下さい。

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