ロマネスコで無限を食べる

この火星人が食べるような妙な形の野菜は、ロマネスコ・ブロッコリー(Romanesco broccoli)。あまり見かけないのですが、たまたま、マーケットの野菜の屋台で売られていたので買ってきました。

ブロッコリー、カリフラワーと同じくアブラナ属の植物。ロマネスコはビタミンC豊富だということで、調理法も、長時間煮たり焼いたりせず、ささっと手早く、が良いそうです。生でどんな味がするかと、そのまま少しもぎとって、かりっと食べてみると、キャベツ風味。キャベツも親戚ですから。ちなみに、ブロッコリーは、癌や白血病に良い食べ物だ、という噂を聞いて、だんなが白血病になって以来、よく買って、食べさせています。

ブロッコリー自体は、18世紀前半にイタリアからイギリスに導入された野菜。他のヨーロッパ諸国へも、同時期に、やはりイタリアから導入された模様です。イタリア語でブッロッコは、「小枝」の意味があるようですが、そこから来た名前なのか、ブロッコリーの小房は、小木か枝に見えなくも無い。このロマネスコも、房を縦にスライスすると、形の良い木のシルエットになります。

それにしても、この見事な幾何学形、自然の産物とは思えないのです。最近、日本の友人が、メールで、中世イタリアの数学者、フィボナッチ(Fibonacci)の螺旋の話を書いてきて、「耳、銀河の渦巻き、濡れた髪を振り上げたときの水滴の軌跡も、みな、フィボナッチの螺旋になるんだって」という下りを読み、頭に浮かんだのが、この野菜。これを見て、「まるで人工のようだ」などという感想を持ちながら、実際のところ、人工物の方が、自然の模倣でしょうか。

だんなに言わせると、「ロマネスコは、フラクタル(Fractal)の良い例でもあるんじゃないか。」だそうです。フラクタルは、去年亡くなったフランスの数学者、ブノワ・マンデルブロ(Benoit Mandelbrot)による概念。簡単に書くと、「図形、物の形の全体と部分は相似している。物の形の一部は、その全体の形を小規模に繰り返したもの。」

確かに、ロマネスコの一房一房を見ると、螺旋を描く全体の野菜を小型にしたもの。そして、フラクタルの概念によると、一房の中に、更に小さい螺旋形が隠されており、その中には更なる螺旋形があり・・・と目で見える範囲では限りあるものの、無限の螺旋形がこの野菜の中にあるという事になります。だんなは、ついでに、「大きなノミと小さなノミの引用を知っちょるか?」と、下の言い回しを、意気揚々と教えてくれました。

Big fleas have little fleas upon their backs to bite them, and little fleas have lesser fleas, and so ad infinitum.

最後の、「ad infinitum」(アド インファナイタム)は、ラテン語で、「to infinity」の意味。

全文を、ざっと訳すと、

大きなノミは、自分を噛む小さなノミを背中に乗せ、小さなノミは、更に小さなノミをその背に乗せ・・・かくて無限は続くのである。

この言い回しは、英語のウィキペディアによると、「The Siphonaptera」というナーサリー・ライムが由来で、更にその大元は、「ガリバー旅行記」の著者、ジョナサン・スウィフトの書いた諧謔詩、「On Poetry: a Rhapsody」の一説から取ったものであるとの事。今では、こうして、時に、数学、特にフラクタル関係で引用される事があるそうです。

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さて、慣れない事を考え、頭も螺旋の様に、くるくる回ってきたところで、これを使って、何を作ろうかな・・・と。

たらこ(Cod roe)がシーズンだそうで、30センチ以上もあった、こんな大きな生たらこを買いました。そこで、スライスしていためたロマネスコとアスパラガスと一緒に、

たらこスパゲッティーにしました。たらこも、ロマネスコも、あまり食べる機会が無いので、我家にとっては、ちょっとしたご馳走。

イギリスで、たらこと言うと、大体が、フィッシュ・アンド・チップスの店で、軽く衣を着けて、揚げて食べるのが一般的。魚類は、何でも、衣を着けて揚げればいいと思っているようで、もったいない気がします。フィッシュ・アンド・チップスでの揚げたらこは、一年中売っているので、おそらく缶詰のたらこを使っているのでしょう。

こうして、たらこスパをつるつる食べ、それと一緒に、ロマネスコの無限も、ブラックホールさながらの私達夫婦の胃の中へ飲み込まれ、消えていったのでありました。

コメント

  1. おはようございます。
    今日は臨時休業です。のんびりしてます。このロマネスコは最近、スーパーでも見かけます。緑の野菜というだけでなく,数学的、物理的、天文学的、生物学的な意味合いからも面白い野菜なんですね。うーん、理系は苦手です。でもパスタは美味しそうですね。私もからし明太スパゲティを作ります。これ和風パスタの代表かな?
    それにしても大きなたらこですね。日本では見かけません。

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  2. 日本のたらは、こちらで取れるものと種類が少々違うのだと思います。買ってきた、このたらこより、更に巨大なものが、フィッシュカウンターに並べられていました。食べ方は、日本風の方がずっといいですが。
    ロマネスコ、スーパーでも売り出されているのですか。こちらでは、あまり見かけない野菜です。イギリス人、食べ物にはわりと保守的で、あまり売れないのかもしれません。見た目面白く、体にも良さそうです。

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