ジャックと豆の木

隣の家が、春先、「今年は野菜は、ラナービーンズ(runner beans・ベニハナインゲン)を育てる。」と宣言しているのを聞き、またBBC園芸雑誌の5月号にラナー・ビーンの育て方の記事が載っていたのもあり、私もまねして、スカーレット・エンペラーなる品種の種のパックを買って、5月後半植えました。鳥の卵の様な模様の種は、眺めているだけでも、楽しく、土に埋めながら、「ジャックと豆の木」のように、ずんずん立派なつると葉が伸び、天まで届く巨大植物が出てくる様子を空想したものです。

 ラナービーンズはとてもイギリス的な野菜と言われます。夏の思い出に、緑の葉の間からのぞくラナー・ビーンの赤い花が風に揺れる様子を思い浮かべるイギリス人もいる事でしょう。私が日本の夏というと、朝顔などを想像する感覚?主人の父親も、毎年、下の写真の様に、庭の奥にさおを組んで一列目にスウィートピー、2列目以降はラナー・ビーンをびっしり植えていたそうで、毎夏インゲン豆ばかり、沢山食べて(食べさせられて)いたとか。

そんな風に、現代でこそイギリス風野菜として見られているものの、ラナービーンズは、原生ではなく、元はといえば、15世紀後半にコロンブスが中米からヨーロッパに持ち帰った、比較的赤道に近い地に育つ野菜であったそうです。そのため、ヨーロッパに導入されたばかりのラナービーンズは、少なくとも10時間は、暗い時間があることが、豆を実らせるのに必要であったのです。よって、日没が夜遅いため、暗い時間が短い北ヨーロッパの夏では、なかなか上手く実ってくれなかった。豆のさやも、初期のものは比較的短かったと言います。そんなこんなで、導入初期の頃、イギリスでは、豆が目的というより、花を目的とし、観賞用に育てられていました。その後、徐々にイギリスの夏に適応できる現地化したものを選出栽培していき、更には、現在のような長めのさや豆を実らせるものができはじめ、イギリスの夏の庭で、簡単に栽培できる大切な野菜とあいなったのです。

さて、地面に植えたものは、初期の頃のやわらかな葉が、なめくじとかたつむりの格好の夕飯となっていました。なめくじ退治用の錠剤も、ものによっては、なめくじのみでなく、そのなめくじを食べた鳥やはりねずみなども殺す可能性があるほど強烈なものもあるそうで、選ぶ際には要注意。野生動物に影響が無いものを買わないと。以前、通りかかった家の前庭でかたつむりを主食とするスラッシュ(thrush)が、特に外傷も無いのに転がって死んでいるのを見て、なめくじ錠剤のせいかな、と嫌な気分になったものです。庭の植物がぴかぴかであって欲しいばかりに、野生動物におかまいなしというのも・・・。そういえば、スラッシュは、毎年、数羽は必ず庭で見かけ、夏の午後、庭に座っていると、かっつんかっつん、スラッシュが、捕まえたかたつむりの殻を割るのに、石やパティオに叩きつけている音が聞こえたものですが、そんな光景にめぐり合うのも、毎年回数が減っている気がして、残念です。鳥に良くない害虫やナメクジ駆除製品は売るのをやめてくれないかと、思うのですが。

何度かのなめくじ攻撃を受けながらも、やがて、気温上昇と共に我家の豆の木も上へ上へと伸び、今は写真までに成長。赤い花めがけ、バンブルビー(bumblebee・マルハナバチ)も訪れてくるようになり、ようやく数個、指先ほどの大きさのインゲン豆がついているのも発見。収穫を開始できるのは、まだもう少し先ですが。

本日は、朝から雨です。久しぶりです。この2,3週間というもの、一切雨が降らず、ウィンブルドンも、2週間まるで雨知らずの大会でしたし、あちこちで芝は茶色に変色し、水不足を心配する声も聞かれていたところです。サッカー・ワールドカップ最終日の昨日も大変な暑さでカンカン照り。終了と共に、天気も下り坂となりました。とりあえずは、庭の植物の水遣りも本日はサボれて、ほっと一息。そして、サッカーらしいサッカーをするスペイン軍団の優勝に満足しながら、今年の初夏の狂想曲に幕が降りた気分です。

コメント

  1. こんばんは
    毎日、蒸し暑く、じめじめとした梅雨の日が続いています。まさに、ナメクジ日和?でしょうか。週末、いつもの沼と松林にバ−ドウォッチングに出かけて、オオタカの幼鳥を見ました。食物連鎖の頂点にいる彼らにとって生態系のバランスはまさに種の存続に関わる事です。ぜひ、おおきく成長してほしいです。
    サッカーは有終の美をかざりスペインの勝利でした。時差の関係で、試合はいつも早朝3時半のキックオフだったので、寝不足になりました。でも楽しかったです。終わってしまってさみしいです。4年後を楽しみにしています。
    今、インゲンが美味しいです。我が家では天ぷらにします。これを食べると夏を意識します。そんなお豆がイギリスにもあるのですね。
    夏のバケーションはイギリスの人はどうすごすのですか?とくに年配のご夫婦など、どうなさるのかしら?
    今年はまだ、何の予定も立っていません。

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  2. 農地などの開発で、ある種の虫がいなくなるだけで、次々に、それを食料とする動物への影響がでるという事で、見なくなった、と思う鳥がいたら、どこかでその食物連鎖にひずみが出ているのかもしれません。
    熟年夫婦のバケーションも色々でしょうが、2,3週間スペイン、ポルトガルへ行く人、フランスへ行く人。どこへも行かない年配夫婦もいるでしょうし。
    2年後には、ヨーロッパ対抗サッカーのヨーロッピアン・チャンピョンシップ(現王者スペイン)とロンドンのオリンピックもあり、そちらも楽しみですね。

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  3. オレンジがかった赤い花が咲くこの豆は北海道で花豆と呼ばれているものと同じようです。私にとってもどこかなつかしい夏の花です。とりそこねた(食べきれない)ものは豆で収穫しても美味しいと思います。母が毎年そんなふうにしています。オレンジ色の花には紫っぽい豆ができ、白い花には白い豆(白花豆)ができます。先日、今年初めてトンボを見ましたよ。

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  4. 北海道の夏の天候は、ここと似ているのかもしれません。今やっと、一番大きなものが20センチほどの長さになりました。本当に食べきれなくなりそうです。紫に黒まだらの種は、手にとって眺めるだけで綺麗で楽しいです。
    イギリス西部はそれでも雨が降っているようですが、こちらはまだ乾燥気味、庭の芝生は茶のままです。トンボなんて、もう秋・・・。

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