プレー・デートをする子供達

先日、主人の以前の同僚が遊びに来ました。ロンドン中心部の高級住宅街に住むアメリカ人の彼女にとって、郊外の我家に来るのは、大変な田舎に乗り込む感覚があるようです。

彼女は2人の子持ちのシングル・マザー。数年前、金融機関でごっそり稼いでいた彼女のだんなが、ある日いきなり、何の前触れもなく、ボストンバックに荷物をつめ、他の女性と一緒になるべく出て行ってしまい、彼女は、育児のために一旦中止していた仕事を再開。日中の子供の世話は家政婦さん。今回、我家に遊びに来たのは、夏季の3週間、子供達が前夫と一緒に過ごすため家におらず、暇ができたため。

前夫から、子供の養育費として送られてくるのは毎月2000ポンド。この金額は丸々、ロンドンのフラット(マンション)の家賃でなくなので、家政婦代、食費、雑費、その他もろもろ子供のお稽古代はすべて彼女の稼ぎから算出。

月々の仕送りが2000ポンドもあるのなら、私だったら、もっと郊外へ引っ越して、家賃または家のローンを、1000ポンド以内に収め、残りを雑費に回す、そして家政婦さんなど雇わず、自分で子供の面倒を見て、子供達が学校に行っている間に、近所でアルバイトでもして小銭を稼ぐ、という生活をするだろうな・・・と思うのですが。若いころから、女性でもキャリアを持ち、人から尊敬されるような良い仕事を持つ事、都会で洗練された生活をする事が、人生で大切と思ってきた彼女にとっては、都落ちと、たとえシングル・マザーであっても、自分の周りの人間に胸を張って語れないような仕事をするなどと、とても考えられないそうです。当然、自分の周りの人間というのは、価値観が似た寄った人が多いわけで、「見下されたくない」という気持ちが強く働いているのでしょう。イギリスの郊外で細々生活をすることになるくらいなら、「カリフォルニアに帰る」そうです。

現在、彼女の子供達の行く学校は、公立でありながら、高級住宅街の中にあるので、クラスメートの両親は裕福なシティー等で働く外人家庭がほとんど。そんな連中と生活レベルを合わせようと、出費は大きく、ストレスも膨らむ。子供達の生活ぶりに触れたとき、彼女が口にしたのは、「プレー・デートやパーティーの予定が沢山で、子供らをあちこちに連れて行くのも大変。」

このプレー・デートという言葉、うちの主人は、少し前に、ニューヨーク・タイムズ紙の記事で読んだ覚えがあるなどと言っていたので、発祥の地はNYかもしれませんが、どういう事かというと・・・
子供達を、放課後や週末、勝手気ままに遊ばせるという事をせず、親が、計画表を開いて、今週水曜日は5時から1時間、xxさんとこのooちゃんと遊ばせよう、と遊び相手と時間のアレンジをするのだそうです。だから、ある日いきなり、どこかの子供が、「放課後遊ぼうよ」と言っても、「今日の夕方はフェリシティーとプレー・デートだから、だめ。明日のプレー・デートはクロエとの予定だし。スケジュールをママに相談してね。週末は、今月いっぱい予定がびっちりだからだめだと思うわ。」てな妙な話になるわけです。ちなみに、彼女の子供達は、9歳の女の子と6歳の男の子。

彼女いわく、「すべてオーガナイズされているから、子供がいつどこにいるかもわかり、助かる。」ロンドンのような都会は、やれ人さらいだ、事故にあった、など子どもを野放しで遊ばせるのは危険、というのはあるし、親が、ちょっとクラスが落ちる好ましからぬ輩の子供と遊ばせるのを防げる、なんていう事もあるのでしょう。

私達が、「プレー・デートをしている子供など個人的に知らない」と言うと、「最近は皆プレー・デートよ。それが主流で、80%くらいの家庭はそうしてるんじゃないかしら。」ちなみに彼女は約12,3年の在英期間中、ロンドン外へ足を踏み出したのは数えるほど、ロンドン圏外に住む知人は私達くらい、彼女の前夫も外人であったため、友人といえるイギリス人はうちの主人も加え2,3人、周りは皆、リッチな駐在の外人たち。そんな彼女が、イギリス一般家庭の80%がどういう生活をしているかに、偏った考えを持っているのは仕方がないのかもしれません。ロンドナーにとって、ロンドンはイギリスの中心で、唯一の大切な小宇宙。私は、いつもロンドンはイギリスではないし、イギリスを判断する鏡にはならない特殊な場所だと思っているのですが。

特に最近のロンドンはよほどのお金がないと、まともな暮らしは出来ない。普通の人たちは、ロンドン圏内を捨て、ゆったりした庭付き生活のできる郊外へ脱出してしまっている感があります。それは、もちろんお金があって、ハムステッドあたりでリッチな生活が出来れば、私も住みたいけれど、屋根裏部屋で惨めな暮らしでは、むりやりロンドンにしがみついても仕方がない。

仕事をぐちりながら、シティーの人間の性根の悪さを罵りながら、高い家賃を嘆きながら、家政婦が自分のセーターをちじめてしまった事に文句をいいながら、彼女は無理をしてでも、ロンドンと今の生活スタイルを離れられない。

プレー・デートやお稽古事で忙しい子供達への彼女の期待も、もちろん高い。「子供が将来プラマー(配管工)になって沢山儲けたら、それは成功?」と私が聞くと、「息子がプラマーなんて、恥ずかしくて私の友人達にいえない。そんな事になったら、窓から飛び降りるわ。」半分冗談でしょうが、彼女の顔は、笑っていなかった・・・。彼女の言う成功は、一流大学を出、ロンドンやNYなどの国際都市でホワイト・カラーのトップ・ジョブにつく事、のようです。

私達には、彼女の態度が理解できず、彼女は彼女で私達が時代遅れの田舎のねずみに見える。もし、彼女が、視点を変えることができたら、もう少しリラックスしてハッピーなのではないか、と私には思えるんですが、人は千差万別、余計なお世話なのかもしれません。プレー・デートをする子供達の生活が、その辺で、勝手に好きなように好きな子と好きなだけ遊ぶ子供達の生活よりも虚しいものに見えるのも、私の偏見かもしれません。とりあえずは、自由に遊べた子供時代があって良かったな、と思う次第です。

コメント

  1. こんにちは
    夏休みに入って甥の中学生が遊びに来ました。彼、大の漫画好きで夫とは話が合います。どうもオタク系男子のようです。プレーデートとは遊びの軽めのデートのことではないんですね。子供も親に管理され、過干渉の生活を強いられるということでしょうか?こういう親は最近、日本でも多いみたいですよ。プライドが許さない。子供にとってはちょっとつらいかも、、。意外と許容範囲が狭められているのがロンドンの生活のようですね。歴史ある都市にはいい意味でも悪い意味でも伝統と格差が人の価値基準を生んでいるのでしょうね。
    ずっと田舎者で暮らして来た私には、都会で暮らし始めた娘がどんどん遠くなってしまうようで、さみしい時があります。彼女にはバリバリ仕事はしてほしい。しかし、のんびりとした感性、ゆったりとした性格は損なう事がないように、と願っています。

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  2. プレー・デートは遊びのデートでも、スケジュールが決められてしまうという融通の利かなさが難点でしょうか。親が決めた子とうまが合わないのに1時間も無理やり遊ばされたり、他の子と遊びたいのに、スケジュールに従い別の子の所へ行ったり。子供の世界が大人の世界に食い込まれてる感じです。
    私も、ロンドン中心部に住んだ期間が長かったので、ロンドン離れがたい気はわかるのですが、子供がいると、話は別かなとは思います。後は、本当にお金の問題で、無理しながらも、周りの人間にレベルを合わせないといけない環境だと、聞いているだけでやつれちゃいそうです。

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  3. 以前コメントしたと思ったのに保存し忘れたみたいです。遊びまで管理されているとは...。イギリスで昔子供だった人はソーシャルダンスを習いに行かされたそうですが、今の子供達は何を習いに行くのでしょう。ロンドンで興味があるのはプロムスと近頃設置されたというレンタル自転車。丈夫そうでおしゃれに見え、レンタル料も安そうでした。

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  4. 彼女の友達の子供は、エロキューションのレッスンを受けるという話でした。後は、お受験のためのチューターを探しているそうです。イギリスというより、国際都市のハイパワーな仕事を持つ親の間の現象かもしれません。プロムも非常にミドルクラスのイベントの感があります。
    自転車はパリで先に導入されたもののまねっこのようですが、自転車自体はとても重いうえ、各ドッキングステーションでの自転車置きの数が少なく、止められる場所がないと別のステーションを探さねばならないはめになり、今のところは成功とは呼べないようです。

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  5. ご無沙汰しています。イギリスに行った2度目からロンドンに入らずに郊外ばかりをまわっていた私には考えられませんねえ。でも彼女ばかりでなく、都会に住む日本人にも似た価値観の人多いですね。都会、学歴、収入がないと幸せになれないと感じていて、その価値観を子供にまで押し付ける人達。日本でも携帯を子供に持たせて、どこにいるかとか、その行動を監視しようとする動きが、安全面からも言われています。
    もう成人しているうちの子供たちは「ぞっとする」と言ってます。私は薬局していた前は他所の場所でフルタイムで働いていたので、学校時代の彼らは親の監視のない生活を満喫できていたのですよ。夏休みだって、私が出勤前に朝ごはん、昼ごはんを作って行って、彼らは好きな時間に起きて、好きな時間に食べていた訳です。(うちは家政婦さんなんて雇ってませんでしたから)で、そういう親の目が届かなかった生活は、彼らには実に楽しかったようですよ。私の教育方針はひとつ、大人になったらちゃんと税金を払える社会人になり、1人で生きていけるようになること。それは成功したみたいで、ちゃんと自分の頭で考えられる人間になったようです。
    人間の素晴らしさって、自由に発想できる能力だと思うのですよね。子育てしていて小さい子供の発想の素晴らしさを本当に感動して感じていたものです。私はそれをできるだけスポイルしたくなかった。それに子供ってどんなに小さくても、しっかり自分の頭で考えて、物事を感じているものです。親が型に嵌めて、盆栽のように育てるなんて、私には考えられません。
    私は自分が田舎育ちで、大人になって都会に出てきて、そこで子供を生んだので、子供達は都会で育てたわけです。そこで感じたのはやはり子供は田舎で育てるべきだったということですね。田舎で得られる自然にはPCやゲームからは得られない素晴らしさがあり、生の命があり、やり直しのきかない現実もある。それを我が子達にも経験させてやりたかった。
    日本の生徒達の学力は、これだけ皆塾に通っているのに、あきらかに昔より低下しているのです。その原因に何故今の親は、政府も(?)気づかないのか、不思議ですねえ。子供を守れるのは親が一番適任なのに、気づいてやれていない。そんな子供達が大人になった時の日本を憂いているのですがね(すでに憂いどおりになりつつありますが)、ミニさんの記事を読むと、世界のトップもそうなってしまいそうですね。そりゃ、スケジュール通り素直に親のいうとおり勉強する子はそこそこ良い大学にでも行けるでしょう。でも自分の頭で考えることが苦手なトップって、怖いですねえ。

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  6. 恋さん、お久しぶりです。

    私もある程度の自然と自由があった方が子供時代は楽しいと思うんですけどね。ロンドンは公園があるから・・と彼女は言うんですが、フラットは外からの排ガスで、窓もあまり開けないそう。その辺で野放しに遊ばせるわけにもいかないようだし。

    英米は、同企業内のトップとボトムの給料の差が、日本、ドイツ、北米などに比べ、非常に大きいので、シティーなどである程度の給料を稼いでいる人は、子供にも同じようになってほしく、子供の成功も、自分のイメージをさらに上げる要素のひとつになっている感じです。会社から、30分おきくらいに自宅に電話をかけて、家政婦や家庭教師にあれやこれやと指図している女性などもいるようですよ。それくらいだったら、専業主婦になればいいのに、社会内の自分のステータス確保のため、やめたくない人は多いようです。

    また学校の質の差も、どのようなクラスの人間がその地域に多いかで大幅に違い、自分と似たり寄ったりの環境の子供とだけと交わって成長してきた子供は、他のクラスの人間がどんな生活を送っているのか、交わる必要も知ることもなくエリートコースへ。いい企業で上へあがるには、オックスブリッジ卒業が有利というのはまだあるようですし。

    理想信条がなく、自分の頭で考えず、金儲け、他人をこき使うこと、自分のすばらしいイメージを世間にアピールすることにばかりエネルギーを使う・・・そういうトップ、この国、多いかもしれません。

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