テリーザ・メイの博打

イギリス人、賭け好きが多いです。町の目抜き通りには、必ずと言っていいほど一軒はブックメーカー(bookmaker)略してブッキー(Bookie)と称される賭けができる店があります。サッカーの試合でどちらが勝つかなどはもちろん、クリスマスに雪が降るか、キャサリン妃が妊娠中だった時は、赤ちゃんは男か女か、といった事まで賭けの対象になりますが、先日通りかかったブッキーのショーウィンドーには、保守党首相テリーザ・メイと野党党首ジェレミー・コービンの写真がでかでかと貼ってあり、先週木曜日に行われた2017年総選挙も賭けの対象となっていました・・・。

就任した時は、総選挙は当分行わない、と言っていたテリーザ・メイ。なのに、なぜ、2年間で済ませねばならぬ、ブレグジット(EU離脱)の過程開始をした後になってから、貴重な時間、(そして金)を費やしてまで、いきなり総選挙に打って出たのか。

現労働党党首のコービンは、マルクス主義者などと呼ばれるほどの左寄りで、労働党は、彼が党首の間は勝つ見込みがないなどと噂されていました。保守党政権下、ブレグジットの結果がひどいことになってしまったら、テリーザ・メイのリーダーシップに不信を表す人物も増えてくるかもしれない。総選挙を、ブレグジット終了まで待つより、「今なら、私は人気もあるし、このうちに、お話にならないコービンの労働党を叩き潰して、保守党の数をぐーんと伸ばせるに決まってる。そうすれば、少なくとも5年は首相でいられるわ。」と見込んで、テリーザ・メイは博打に出たのでしょう。なにせ、若いころから首相になる事が夢だったとかいう人。国がどうなろうと、ブレグジットのネゴがどうなろうと、そんなのは、自分がどれだけ長く首相でいられるかという野心の2の次というタイプである気がします。いずれにせよ、賭けは逆噴射。あはは~。

コービンの労働党は、鉄道の再国営化、つりあがった大学学費廃止、最低賃金の大幅引き上げ、警察、医療機関、その他もろもろの公共機関に金を注ぎ込み、その他、あれもこれもと、そんな金どこにあるんじゃ、と思うほど大盤振る舞いを約束。総選挙が宣言された直後は、テリーザ・メイの保守党が大勝利をおさめ、議会での過半数をずっと超える結果が予想され。

たかをくくったのか、メイおばさん、何かにつけて「ストロング・アンド・ステーブル」(強力で安定)な政府を作ってブレグジットのネゴにむかうためには私しかいない!のスタンスを取って、党より、自分を前に押し出しての、まるで大統領選挙のようなキャンペーンぶり。キャンペーン用の各地を回るバスにも、テリーザ・メイと自分の名前をでかでかとのせ、党名は、下の方にちいさーくのせるのみ。口を開けば、ストロング・アンド・ステーブル、ストロング・アンド・ステーブル・・・と、まるでロボットのように繰り返す。いい加減、彼女のえらそーな態度が嫌になってきた国民も多かったところへ、このストロング・アンド・ステーブルのキャッチ・フレーズがコメディアンの笑いの対象とも化していきました。また、非常に秘密主義的な人のようで、今回のキャンペーンも、党団結しての方針というより、周囲のごく少数の人間だけの意見で推し進めたようです。

相反して、方針は、おとぎ話の夢の国的であるものの、やさしいおじさん風で、人間的、リラックスしたコービンが、特に若者層の間で人気を増していき、選挙日はこの若者層が大挙して投票、めた負けする予想であった労働党が、思いもかけず、議席を増やす結果となった次第。また、ブレグジットに反対した国民の間では、保守党が思いのままに強硬姿勢のブレグジットのネゴを進めるのを嫌がり、バランスを持たせるために、コービンの国を破産させかねないイデオロギーには共鳴しないものの、わざと労働党に投票した人も多かったようです。

331いた保守党議員の数は、318に減ってしまい、過半数に必要な326を下回ってしまいました。一方、労働党議員は、261に増え29人の増加。ストロング・アンド・ステーブルどころか、最大党の立場は守ったものの、総選挙前より弱い立場となり、数々の案を議会で通すには、保守党は、他の政党の協力が必要とない、10人の議員を持ち、一般には、ユニオ二ストとして知られる、北アイルランドのDUP(Democratic Unionist Party、民主統一党)とのネゴが続いています。アイルランドとの統一を目指すカソリックと、イギリスに留まることを支持するプロテスタントの対峙が、過去何度も問題を引き起こしている北アイルランドにあって、このユニオ二ストは、プロテスタントの超右派。地球温暖化否定、同性愛者の権利に反対などなどの、いささかイギリスの一般体質とは相いれないものがある上に、確か、昨今、汚職事件もありました。そんな党と協力するのか・・・。やはり過半数に足りない政府を抱えていたジョン・メイジャーの時代、彼は、北アイルランドの特定の党のみを味方とし、北アイルランド問題を悪化させるわけにはいかないと、ユニオ二ストとの協力を拒み、毅然とした態度を見せたそうで、大切な票決がある際は、病気の保守党国会議員も、担架で運び込まれてまでも、票を入れるようなこともあったそうです。必死のテリーザ・メイはそんな凛としたところもない。モラルもなんもない。どこまでユニオ二ストが提示してくる要求にはいはい言うんでしょうかね。

自分の野心のため、国中を、お騒がせして、打った博打で負けたら、潔くやめればいいのに、今のところ、その気配も全くありません。背後では、不満くすぶる保守党議員も多くいるようですが、今、彼女がやめて、さて、後を誰がやるのか・・・それは、それで、全く適者が頭に浮かびません。労働党なら、この人が党首になってくれれば、と思える人は数人いるのに。困ったことは、今回の選挙で、労働党が結構頑張ったことで、コービンが、このまま党首の座にとどまって、おとぎの国方針を続けていくだろうこと。もっと現実味を持った党内中道のリーダーにとってかわり、信ぴょう性のある野党ができない限り、イギリスの政治、しばらくは向上しそうもない感じです。

テリーザ・メイ政権がいつまで続くか、という賭けも、そのうちブックメーカーで始まる事でしょう。

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