シャンブルズ

「Shambles」とは、現在は一般に、「混沌」、「ぐちゃぐちゃの状態」を意味する名詞ですが、かつては、屠畜場、肉屋、肉市場を指す言葉としても使われていました。もともとは、物を売るのに商品を並べる小さなベンチやテーブルを意味する言葉から派生したそうです。要するに、「肉を展示するベンチ」から「肉を売る場、屠畜場」を指すようになり、そこから、内臓、血などが飛び交う「残虐な事が行われる場所」の意味が生まれ、やがて「混沌」を意味するようになった次第。通常、複数形で使用されますが、扱いは単数。

This house is a shambles.
この家はぐちゃぐちゃだ。

これから派生した形容詞は、「shambolic」で、

The government's Brexit policy is shambolic!
政府のブレグジットに対する対策は混とん状態だ!

というように使用します。

ヨークのThe Shambles
その名も、The Shambles ザ・シャンブルズと呼ばれる小さな通りが、イングランド北部の歴史のひしめく町、ヨークにあります。ヨーロッパで中世の面影を最も良く残している通りであると言われています。狭い道に、上階がの飛び出た形のハーフティンバーの建物が並び、ほんの短い通りですが、ヨークの観光目玉のひとつですので、いつも人は沢山。

この通りは、12世紀のドゥームズデイ・ブックにも記載されている古い通りである上、建物の多くは、14世紀半ばからから15世紀にかけて、建設されたもの。かつては、もちろん肉屋通りで、軒を並べて肉屋の店と居住場、店の裏には、屠畜をする場所もあり、そこで殺した家畜の肉は、窓の下の小さなテーブルに並べられたリ、店の外に吊るされたり。肉を吊るすのに使ったフックなども、一部の建物にはまだ残っています。19世紀後半には、まだ25~30件ほどの肉屋が残っていたようですが、現在あるは、お土産物屋、ティーショップなどなどで、肉屋は一軒もありません。

今の観光客の目から見れば、見た目にロマンチックではありますが、こんな小さな通りに、屠畜場、兼、肉屋がひしめいていたのでは、たいそう、臭かった事でしょう。ハエなどもぶんぶんいて。道の両脇には、歩道があり、その真ん中が浅い溝の様になっていますが、時折、ここに家畜の内臓や血液を掃き出して、洗い流したりはしていたようですが。その後、それが、どんぶらこっこと、どこへ流れていったのやら。

幅が狭い通りに、頭が突き出た建物を建てるというのには、枝細工と漆喰でできた建物の壁を風雨から守る事、また、肉を直射日光から守るという、実用的な用途があったようです。

パタノスター広場、ニューゲート・ストリート、スミスフィールド市場を望む
さて、前回の記事で、ロンドンのスミスフィールド食肉市場に触れましたが、スミスフィールドがまだ家畜市場であったころ、イギリス各地からやってきた家畜は最終的に、スミスフィールドの南側、セント・ポール大聖堂北側にあたる、ニューゲート・ストリート(Newgate Street)とパタノスター広場に(Paternoster Square)位置し、主に食肉を扱っていたニューゲート・マーケットで屠畜、販売されたようです。ですから、ニューゲート・ストリートとパタノスター広場周辺が、ロンドンのかつてのシャンブルズがあった場所という事になります。一般市場であったニューゲート・マーケットは、1666年のロンドン大火後に、こうした肉専門の市場となるのですが、約200年後の、スミスフィールド食肉市場のオープン(1868年)後、必要が無くなり、終結となります。

上の写真は、セント・ポール大聖堂のドームの上から大聖堂北側の景色を取ったものですが、赤で丸く囲んであるところが、かつてのスミスフィールド家畜マーケット(現在のスミスフィールド食肉マーケット)、緑の線がニューゲート・ストリートその下にあるのが、パタノスター広場。これで、大体の位置感覚をわかってもらえるでしょうか。多くのオフィスの建物が立ち並ぶ今、ぐちゃぐちゃで、異臭を放つシャンブルズの時代は、ちょっと、想像するのも難しい、遠い昔の話です。

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