ナショナル・ガーデン・スキーム

春も到来と、さっそく、ぽかぽかの昨日の日曜日、ガーデニング好きのお隣さんの車で、ナショナル・ガーデン・スキームで、一般公開されていた比較的近くの庭園へ出かけてきました。チューリップが見事な庭園だというので。さて、このナショナル・ガーデン・スキーム(National Garden Scheme)というのは、何ぞやというと・・・

事の起こりは、1859年に遡り、リヴァプールに住んでいたとある実業家が、病気の妻を家で介護してもらえるようにと看護婦さんを雇った事。奥さんが亡くなった後、氏は、近所の貧しい人々の介護にあたってもらうため、その看護婦さんを雇い続け、やがては、リヴァプールの貧しい地域で活動できるような、看護婦のトレーニングと育成のための資金を集める。そして、時が経つこと1927年、当団体は、イギリス一般人のガーデン好きに目をつけて、綺麗な庭園の持ち主に、年に数回、ささやかな入場料を取り庭を公開することを呼びかけ、入場料と、内部で販売されたお茶やケーキなどの収益を、地方の看護婦養成などのための慈善に寄付するスキームを設立する事を考案し、ナショナル・ガーデン・スキームの始まりとなるのです。1年目、すでに、609の庭園が参加し、公開になったという事。イギリスの戦後、医療が無料となるナショナル・ヘルス・サービス(NHS)が設立されてからは、ナショナル・ガーデン・スキームは、地方看護婦の養成と援助のためというより、他の医療、健康関係の慈善団体に寄付をするスキームとして現在に至っています。

一般人としては、普段は開いていない庭園でお花を楽しんで、慈善にもなるという事で、春から秋にかけての恒例行事として、かなり成功しています。

このスキームに参加している庭は、まあ、ピンからキリまでで、大きな屋敷の大庭園もあれば、その辺の普通の家の綺麗な庭、なんてのもあります。庭自慢の人が、「私も参加したい」と申し出ることができるようになっているので。毎年、春になると、地域ごとに、どの庭園がいつオープンになっているかという小さなパンフレットなども発行され、私はお隣さんから、2週間ほど前にこのパンフレットを渡され、「行きたいところがあったら行こう」という話になっていたので、ちょっとした夏日となった昨日、家から車で15分ほどの庭園へお出かけとあいなりました。

訪れた庭園は、個人宅なのですが、立派なお屋敷と、かなり大きな敷地で、駐車場所もかなり広い。開園後すぐに着いた時には、すでにかなりの数の車が止まってました。入場料は一人5ポンド。金額は、庭の規模によって、多少違いますが、皆、大体が5ポンド前後です。一度、新聞記事で、春に訪れるには最適の庭園などと紹介されていたのも人気の原因でしょう。敷地内には、川も流れ。川沿いのベンチを陣取った老夫婦は、私たちが庭園内にいる間、その場所から、一切動かず、景色をながめていました。

野の花が咲く一角も確保してあり、カウスリップ(俗名:Cowslip、学名:Primula veris)と呼ばれる、プリムローズと同じくサクラソウ属の野の花が沢山咲いているのを目撃。「最近、野生のカウスリップ少なくなってるんでしょう?」と、私がお隣さんと話していると、やはり前からやってきた別の人たちが、「あ、めずらしくなってきてるカウスリップがこんなに咲いてる。」なんて話ていました。若者より、少々年配の訪問者が多かったですね。

個人宅で、これだけの敷地の庭を管理するのは大変でしょう。きっとガーデナーを雇っているのでしょうが。

チューリップなども、オランダのキューケンホフなどと比べると、それは、もちろん、規模はずっと小さいですが、かなり色々種類集めていましたし。暖かい色の深い赤とオレンジ系黄色をあしらえた、このチューリップの花壇は、中でも気に入りました。

少々、歩き回ってから、お茶とケーキでもしようかという話になったのですが、カウンター前は長蛇の列で、お隣さんは、「こんなの待ってたら、クリスマスになっちゃうわ。」というので、また敷地を一周して帰宅。お茶とケーキは自宅の庭で。

ちなみに建物の一つの屋根には巨大蜂の風向計がそなえつけられていました。イギリスの、もこもことして可愛らしいバンブルビー(マルハナバチ)というより、日本のスズメバチのような、ちょっと怖めの風体ですが。

この庭園は、私が好きな上の写真の教会のすぐわきにあります。以前、「イギリス各地特有の建物」という記事で、その土地その土地の地層によって、建物に使用される素材が違う、という事を書いた事がありますが、しっかりとした、建物に使用できるような石が掘り出せない、この辺りでは、特に重要な建物でない限り、遠くから石を運び込んで建設、などということはせず、地元で掘り上げた、フリント・ストーンなどのゴロゴロ石を使って作られている建物が多いです。この教会なども、その典型でありとあらゆる色と形のゴロゴロ石を勝手気ままに埋め込んだ雰囲気。そうして作られた壁のパターンが、ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家のようなのが、とても可愛らしい。

いつもは閉まっているこの教会が、ガーデン・スキームの一環で開いていたので、初めて中を覗いてきました。中は、ヴィクトリア朝時代に修繕されたという事で、小さなサイズのわりには、立派で外観よりモダンな雰囲気がありました。ボランティアのおじいさんが、色々説明を入れてくれました。

こうして、シーズンが始まったナショナル・ガーデン・スキーム。秋までに、他にもいくつかの庭園を見て回ろうと思っています。ナショナル・ガーデン・スキームの公式サイトは下まで(英語のみ)。行きたい場所によって、どのガーデンがいつ開いているか検索できるようになっています。
https://www.ngs.org.uk/

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