カティー・サークは魔女のシミーズ

カティー・サーク(Cutty Sark)というと、ロンドンのグリニッジにある、19世紀に中国からロンドンへお茶を運んで活躍した快速帆船(ティー・クリッパー)の名前、ひいては、この船の名を取ったスコットランドのウィスキーのブランド名として有名ですが、もともとのカティー・サークは、スコットランドの言葉で、短めのシミーズのような下着を指した言葉だというのですから、少々ずっこけます。意味を知らずに、「カティー・サーク」と聞くと、果敢なる響きがありますから。

確かに、カティーサーク号の船首像(figurehead)は、このシミーズっぽい下着をだらんと着て、胸を露にし、手に馬の尻尾を下げている女性の姿。これは、スコットランドの国民詩人として名高いロバート・バーンズが、1791年に発表した詩、「タム・オシャンター(Tam O'Shanter)」に描いた魔女のナニー。この詩の内容は、

酔っぱらいのタムという男が馬のマギーにまたがり、ある夜、教会の前を通りかかると、教会に明かりがともっている。中を覗き込むと、悪魔が奏でるバグパイプの音楽にあわせ、魔女やら魔法使いやらが踊っている。魔女たちは、醜い老婆ばかりだったのが、一人うら若く美しいナニーという魔女が、シミーズ(カティーサーク)を着て、色っぽく体をくねらし踊っていた。見ているうちに、タムは興奮して「あっぱれ、カティーサーク!」と叫んでしまったのが関の山。タムに気づいた魔女や、魔法使いたちが、タムをつかまえようと一気に追ってきた。タムは、マギーにまたがり、必死で逃げ、ドゥーン川(River Doon)にかかるドゥーン橋(Brig o 'Doon)のたもとに向った。魔女たちは、流れる川を渡ることができない、という事になっているので、橋を越えれば、安全、というわけ。ドゥーン橋のたもとで、お色気魔女ナニーは、マギーの尻尾をつかまえたが、それでも、タムを乗せたマギーは、何とか橋を渡り逃げ切り、橋のたもとのナニーの手には、マギーの尻尾だけが残った・・・。

ナニーに追いかけられ必死に逃げるタムを描いた上の絵は、スコットランドの南西部、ロバート・バーンスの生誕地アロウェー(Alloway)にあるロバート・バーンズ・バースプレース・ミュージアム蔵で、この博物館のサイトから拝借しました。
http://www.burnsmuseum.org.uk/collections/object_detail/3.8042
タムが無事に逃げ渡ったドゥーン橋も、博物館近くにあるようです。

流れる水を渡れないという事になっている魔女が、大海原を何日も何か月も渡る帆船の船首像というのも、不思議なコンビネーションです。タムの後を追うナニーの猛スピードから、茶を摘みこんで、速さを競ったティークリッパーにはいいかな、となったのでしょうか。

上の写真は、港に停泊中のカティー・サーク号のマストの上に掲げられていたという風見計。こちらは、間違いなくシミーズです。1916年に喪失したと思われていたものが、1960年に、いきなり、ロンドンでのオークションに姿を現したものだそうで、現在は、カティー・サーク号内に展示されています。

ちなみに、船首像の英語である「figurehead、フィギャーヘッド」は、政治、またはある団体の名目上の長の事も意味します。実際の権力は他の人間が握っていても、国家、団体のイメージ、象徴的な役割を果たす人間ですので、イギリスのフィギャーヘッドと言えば、首相より、エリザベス女王という事になります。

という事で、魔女ナニーが船首像として風を切ったカティー・サーク号内部見学に行ってきました。

コメント