チェス川沿いに見たもの

先月、ロンドン北西部を流れるチェス川(River Chess)沿いのウォーキングに出かけ、地下鉄メトロポリタン・ラインのチェシャム(Chesham)駅から出発、コーリーウッド(Corleywood)駅まで歩きました。更にがんばってずっと行進し、もう一駅区間歩けば、前回運河沿いを歩いた、リックマンズワース(Rickmansworth)駅までたどり着いたのですが、途中で、日が暮れかけてしまったので。

このウォーキングの途中、川の斜面に、段々畑の名残のような土地がありました。11世紀頃のイギリスは、現在より、かなり気候が温暖だったということで、葡萄を育成していたという話があります。まあ、今でも、大掛かりではないものの、イングランド南東部で育てた葡萄を使って作るワインなどもありますから。なんでもこの段々斜面は、昔、この気候が温暖だった時代の葡萄園だった、と言われています。チェス川周辺は、フランスのワイン産地などと同じくチョーク層で、葡萄園には適した地質ではあるわけです。実際、一番最初に、葡萄の木をイギリスに持ち込んだのは、やはりローマ人だったようですが。

段々畑を背に、草の上に腰掛けて、川を眺めながら一休みしました。今は、葡萄の木の形跡は無く、多くの牛が草を食んでいるだけ。友人は背後からしのびよってきた子牛に、ベロリと耳をなめられていました。

やがて、一頭の牛が、川辺に下りてきて、水を飲み始めると、我も我もと、何頭も後から水辺に近づき、そこで憩いのひと時を過ごしていました。

イギリス産ワイン・・・といえば、巷で、イングリッシュ・ワインと称されるものと、ブリティッシュ・ワインと称されるものが売られています。その2つの、一体、何が違うのか、という事を調査したテレビ番組を、先日見ました。それによると、イングリッシュ・ワインと呼ばれるのものは、正真正銘のイギリス産で、イングランドで育った葡萄を使って作られたワインで、お値段、やや高め。反して、ブリティッシュ・ワインは、ヨーロッパ(主にスペイン)から、シロップのような、葡萄の濃縮ジュースを輸入し、イギリスで発酵加工して、ボトルに入れて売り出しているものなのだそうです。よって、ブリティッシュ・ワインは、お値段かなり低いバーゲン価格ワイン。安いからと、ブリティッシュ・ワインに手を出すと、あまーくて、「これはワインというより、ほとんど葡萄ジュースじゃないか」という事になります。

さて、話をチェス川に戻すと、この川の一部には、クレソン(英語:Watercress 、ウォータークレス)を栽培している場所がありました。クレソンは、チョーク層のきれいな流れを好む植物なのだそうですが、こちらは葡萄と違い、もともとイギリスに生えていた原生の植物。少々ぴりっとするものの、ビタミンC豊富の健康食。以前は、メトロポリタン・ラインを使ってロンドンの中心部まで出荷したりもしていたようです。

この辺りは、また、数の激減、一時は生存も危ぶまれた、ミズハタネズミ(英語:Water Vole、 ウォーターヴォール)の生息保存地域でもあります。ミズハタネズミは、イギリス児童文学の古典「たのしい川べ」のメイン・キャラクターでもあり、ボートと川での生活をこよなく愛する川ねずみ、ラッティーとして登場しています。川沿いに、「10分くらい、じっと立ってると、運がよければ、ミズハタネズミを見れます」と書かれた札が立っている場所がありましたが、10分くらいいたのだけれど、運が悪い私は、ラッティーとはご対面できなかったです。

地下鉄で行ける範囲の中で、まだこれだけの自然が楽しめるのが、ロンドンの魅力のひとつです。

余談となりますが、チェシャム駅は、ロンドン地下鉄網の中で、最北で最西に位置する駅であり、ギネス世界記録の「チューブ・チャレンジ」(地下鉄チャレンジ)においての、出発駅として知られているようです。このチューブ・チャレンジは、ロンドンの地下鉄駅の全てを、バス、地下鉄、鉄道等の公共交通網だけを使用して、どれだけ早く回ることができるか、という試みのようです。現記録は、16時間29分57秒なのだそうですが、元気のある人は、チェシャム駅から、新記録を目指して、大急ぎでの地下鉄の駅めぐりはどうでしょうか。

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