ブラウン・ベティーでティータイム

この茶色の丸いティーポットはブラウン・ベティー(Brown Betty)。5ポンドくらい出せば、スーパーでも、その辺の店で買える、非常にありきたりのティーポット。でも、これが、紅茶を飲むには一番というのです。

保温効果が高いという赤みがかったテラコッタクレーで作られ、その上から、独特の濃い茶色のうわぐすりをかけて焼かれ、こうしてぴかぴかに仕上がっています。実際に誰がこのポットをデザインしたかは定かではないようですが、1600年代終わりには、オランダ人兄弟がスタフォードシャー州で、赤土を使用したティーポットの製造を始めていたということ。

紅茶が、この国で人気の飲み物としての位置を確立するジョージ王朝時代には、すでに良く使われ、ヴィクトリア朝では、一般に普及する人気のポット。名前の由来も、やはり定かではないものの、19世紀に一般庶民の間でも人気であった名前「エリザベス」から来たのではないかとされています。エリザベスと言う名の召使は、愛称の「ベティー」で呼ばれる事が多かったからだと。

ぽっこりと丸い形が、熱湯を注ぎ込んだ際に、紅茶の葉が自由に内部を動き回って、味を出すのには、最適なのだそうです。いわゆるデザイン・クラッシックなどと呼ばれる、形が何世代も変わらず使われ続け、現代に至る日常品と言うのは、要は、他にそれより良いデザインがないからなのでしょう。

頻繁に、ポットを使って紅茶を飲む家庭では、何度も洗ってすすいでを繰り返し、ポットをかけさせてしまう危険もあるので、手ごろな値段も魅力なら、紅茶のしみで、多少の汚れがついても目立たない色も良し。それに、何と言っても、何故かこう、ほっと一安心するのです、この、ぼっこり形。念のために書いておきますが、一般のイギリス人に「ブラウンベティー」と言っても、何のことかわからない人は多いです。彼らにとって、このティーポットは、ただの日常的に使用する茶色のティーポットですので。

上の絵は、私の大好きなフランスの画家、ジャン・シメオン・シャルダン(Jean-Baptiste-Siméon Chardin)による、「Lady Taking Tea」(紅茶を飲む婦人、1735年)。絵のモデルは、この絵が描かれた2ヵ月後に亡くなったシャルダンの最初の奥さんだと言われています。彼女が亡くなった後の、所持品の目録には、絵の中の赤いテーブルと、ブラウン・ベティー風茶色のティーポットが記載されているということ。

静かなティータイム。揺れる紅茶の表面を眺めながら、彼女は何を考えていたのでしょう。そして、このティーポットは、メイド・イン・イングランドでしょうか?生前の所持品として記録されたという事は、当時、こうしたポットは貴重だったのでしょうか?名画を鑑賞しながら、絵の中のティーポットの素性を知りたくなるなんて・・・。

*シャルダンについては、過去の記事「ルーブルにて」まで。

さて、他にもブラウン・ベティーでティータイムを楽しむのは、アニメのキャラクター、ウォレスとグルミット。このポットは、彼らの日常シーンには無くてはならない一品。ただ、グルミットは、ばらのお茶っ葉(リーフティー)は使わずに、不精してティーバッグを使っていますが。

まあ、実際、最近は、リーフティーを使って紅茶を飲む家庭というのは少ないのではないかと思います。スーパーなどでも、売っているのは、圧倒的にティーバックが主流ですし。また、マグカップに直接ティーバッグを突っ込んでお茶出しをするので、ポットを一切使用しないという家庭も増えていると思います。

ウォレスとグルミット、2005年の劇場公開映画、「The Curse of the Were-Rabbit、 兎男の呪い」(邦題は、野菜畑で大ピンチ)内では、グルミットは、温室で育てている大切な野菜の水遣りにも、じょうろ代わりに、このブラウン・ベティーを使っています。こんなじょうろがあったら、私もひとつ欲しいところですが。


我家には、お客さんが来たときのために、3~5人用ほどの大型のブラウン・ベティーの他に、夫婦2人の紅茶タイムに使う、1~2人用小型のものがあったのですが、先日、小型用の蓋を、だんなが、がしがし洗っている最中に落として割ってしまいました。だからいつも、皿洗いはしないで欲しい、と言っているのに・・・。

「買い換えなきゃ」と思っている矢先、通りがかったチャリティーショップのウィンドウに、この黄色の小型丸ポットが飾られているのを見て、「あ、調度いい大きさ」と購入。イエロー・ベティーと呼べばいいのでしょうか。これからの、2人のティータイムのお供です。

*チャリティー・ショップは慈善団体経営の店で、一般人や、ビジネスから寄付された服や本、小物、陶器などを売り、普通の店よりも、大体の場合、安く、売り上げは慈善事業へ回されます。品物は中古が大半ですが、新品もあり。このポットは、おそらく新品で、1ポンド49ペンスでした。

写真内のチューリップは、昨日のヴァレンタイン・デーに、だんなが買って来たもの。夜のロンドンの駅の構内の花屋で、「こんな時間だから、もう売れないんじゃない。」と店の人と交渉して、2束を1束の値段に値切ったのだそうで。毎年、ヴァレンタインには、ディスカウントされた花束を受け取るのには、慣れっこになっている私ですが、「値切ったなんて言わなきゃいいのに」といつも思うのです。

まあ、でも、庭のチューリップの開花は、まだ先だし、新しいティーポットの色と共に、華やかで綺麗です。


追記:
オリジナル・ブラウンベティー (2020年4月)

スタフォードシャーの赤土でできた、100%イギリス製手作りのオリジナル・ベティー

今まで使っていたポットの蓋が欠けてしまい、最近、買い替えました。実は、一番上の写真のスーパーで購入したものは、おそらく中国製の、偽物(!)ベティーだったので、今回は、本物のベティーをインターネットで購入。値段は、15ポンドほどと偽物よりぐっと上がりますが、それでもびっくりするような高額ではありません。

さて、では、なにをもって、本物オリジナルのブラウン・ベティーとするのか。まず、上述のように、本物は、スタフォードシャー州ストーク・オン・トレント周辺のみで取れる赤土を使っている事。これは、蓋をひっくり返して、上塗りのされていないヘリの部分が、使用した土の赤茶色であるかどうか、また、ポット母体の底を見て、やはり上塗りの無い部分の露出部が赤茶色であるかで分かります。今までの物は、この部分、白でした!白色クレーの方が、工場での大量生産に適しているのだそうです。本物はいまだに、大工場での大量生産でなく、イギリス国内でのハンド・メイドです。

また、本物は、ポットの底に、Original Bettyとか、 Made in Englandと書かれており、更に、購入時に、ブラウン・ベティーの歴史などを綴ったラベルがついてくるのだそうです。

どうせ買うなら、本物を買いましょう。

コメント

  1. こんばんは
    可愛いポットですね。名前がベティというのもいいです。いつも朝はミルクティなのでこんなのがあったらいいです。
    素敵な花束もうらやましいです。やさしいご主人なんですね。黄色のポットにぴったりです。
    グルミットも大好き。細かい描写が気に入ってます。とても犬とは思えません。

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  2. 気取らず比較的手ごろな値段というのも、安心して使えます。イギリスの映画を見ていると、時代物でも、時折でてくるのを目撃する事もあると思います。
    こちらは、ヴァレンタインデーに、義理チョコが無いのは助かります。男性が女性に花を買うのは一般的な感じで、薔薇の花束は、ヴァレンタインデーにはかなり高額です。チューリップを値切ってでも、買ってくるだけましでしょうか。
    グルミットの物言う目玉演技は最高ですね。

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